アルツハイマー病だけど“認知症ではない”ということもあり得る

認知症の予防っていうのは、今言われてることはあまり正しくないことが多いかなって僕は思うんです。

認知症は原因となる疾患によって起こります。

だから認知症の予防にはふたつあって、ひとつは原因疾患にかからないこと。

つまり、疾患にかからないことの予防。

これがひとつです。

もうひとつは、原因疾患は治せなくても、支援をすることで原因疾患によって引き起こされる生活への支障を減らすこと。

しかも進行性っていうことで生活のなかに支障が出てきます。

この生活のなかに支障が出てくることのうち、いくつかは、消すことができる。

アルツハイマー病で750グラムまで脳が縮んじゃった人がアメリカでいまして、この方は修道院の修道女なんですけども、生活に支障がきてないんです。

簡単な話です。

若い頃から修道院に入ってずっと同じ生活を毎日毎日同じ環境のなかでやってるもんだから、生活のなかに支障がこない。

だからアルツハイマー病にはなったけれども、認知症にはなってないんです。

生活に支障がないんで。

家族は素人だから家ではいろんなことがあると思います。

だけどプロがいるグループホームに移ると、素人ではない視点で支援をしていきますから、家で起こっていたことがなくなったりするわけです。

つまり生活の支障が減るわけです。

生活に支障がきたことを予防する。

これがふたつ目の認知症予防ですね。

講演する和田行男氏の写真

介護業界は原因疾患を止める場所ではない

このふたつがとても大事なわけですが、介護現場は認知症の原因疾患の治療をするところではありませんね?

介護現場っていうのは、すでに原因疾患にかかって認知症の状態にある方の支援をするところです。

そういう意味では、生活に支障がきていない状態を増やしていくこと。

これが予防として僕らにできることになるわけです。

今の認知症はビジネス戦略の代表格ですから、これ飲んどきゃアルツハイマー病にならないとか、これやっときゃなんだとかいっぱい言われてるでしょ?

市民の方にもそれを信じてやってる人がいると思うんですよ。

それは、続けてください。

ただし、それをしていてなったときには、それを勧めた人を責めないでください。

「お前がこれやっといたらならないって言ったからやってたのになったやないか」とは言わないでください。

現段階ではアルツハイマー病に関しては、“これをやっときゃかからない”ということはまだわかっていません。

“これをやっておいたらならない”なんていうのはないんです。

是非ですね、認知症予防っていうこの二つのことを忘れないでほしいです。

介護現場は原因疾患を治すところではなくて、原因疾患の再発防止や、原因疾患から起こる生活への支障を減らしていくところ。

すごくわかりやすく言うと、家族と一緒にいたときにはもともとできた“買い物ができなかった”けれども、介護職員の前にいったら“買い物ができるようになった”。

これは認知症が減ったということです。

講演の準備をする和田行男氏

“円背の婆さん”から、世界はどう見えているのだろう

あと、あるグループホームに行ったときの話です。

ホームの中でおしっこをしてしまう人がいると。

「どうしたら良いでしょうか」って言うから「どの人だ?」って言うと「あの方なんです」って言うんで「ああそうかー」って言って。

その方どんな方かっていうと、円背(えんぱい)なんですね。

ぼくはその方と同じ角度になって施設のなかをずっと歩いてみましたけれども、その施設には“トイレはありません”。

その婆さんから見えるトイレの表示がないんです。

つまりその婆さんにとっては、“トイレがない”んです。

“トイレがない”っていうことがわかれば、トイレが“あるように”すれば良い。

円背の方は僕たちとは違った角度から世界を見てますから、その方にトイレの表示が見えるようにしてあげる必要があるんですね。

それもしないで「放尿=異常な行動」と言うのは婆さんに申し訳ない。

こういうことがとっても大切なことで、それを考えていくのが専門職の仕事っていうことになるわけです。