介護現場でもできていないのが「触れる・語る・見つめる」という人間の基本
みなさんが一番関心が高い、というよりも、勘違いしやすいことをお話しようと思います。
お友達同士がこのレストランに来られて、この研修会を聞いてらっしゃいます。
たとえば、A子さんとB子さんにしましょう。
終わりましたらB子さんはおうちに帰ろうって思ってました。
A子さんはそのB子さんに「ちょっと今日の和田さんの話で私クエスチョンだらけなんだけども、お茶でも飲みに行って話さない?」って言いました。
そうするとB子さんは、お家に帰ることに優先順位の一番があると、「今日は駄目」って断ります。
皆さんもそうですね?
だけど、お家に帰ることに優先順位がないと、「どうしようかな」と迷います。
A子さんはB子さんに何としてもお茶を一緒にして頂きたいんで、さらに次の一手を打ちます。
その次の一手で一番多いのが、皆さんもよく使うと思うんですけども”今日は奢るから”っていうやつですね(笑)。
そうするとB子さんは「あら、そう?」って感じになる(笑)。
もう一個言うとね、ユマニチュードって介護職は聞いたことあると思うんですけど、「触れる・語る・見つめる」っていうは人間の基本なんですね。
だから皆さんは人に誘いをかけるときに、あっちを向きながらは絶対に誘いませんね?
たとえば、あさっての方向を見て「B子さんお茶飲みに行こうよ」ってそんなことしないですね?
顔を見て「B子さんお茶飲みに行こう」と言うはずです。
これは実は介護現場でも同じなんですけども、これをできない人がいっぱいいる。
“帰宅欲求”の四字熟語は小学校の授業で習わない
A子さんとB子さんが喫茶店に行ってお茶を飲んでるわけです。
そうするとね、B子さんの携帯電話が鳴っちゃったんです。
出たら、旦那さん。
今日は旦那さんが少し早めに帰ってくるということを告げてたんですけども、B子さん忘れちゃってました。
「何してんだお前、俺もうちょっと早めに帰ってくるって言ったやないか」って言われたら「あ!そうや!」って気がつくわけですね。
気がついたんで、Aさんに「ごめんA子さん先に帰るわ~」って言うわけですよ。
そのときA子さんはB子さんに「なに、あなた帰宅欲求が出たの?」って言いますか?
市民の方はわかりにくいかもしれないんですけど、言わないでしょ?
なんで言わないんですか?
「何でお家に帰るんですか?」ってみんな聞くでしょ?
自分なりの理由を言うんです。
そのなかで、たとえば「子どもが待ってるからよ」とか言うんです。
「家族がいるから」とか言うんですね。
「じゃあ子どもが待ってなかったら帰らないの?」って聞くと、何かしらの理由で帰るんですね、やっぱり。
みなさんが家に帰る理由に、「欲求だから帰る」はないんです。
自分なりの意味を持つんですね。
ところが認知症の人が家に帰るって言うと、「帰宅欲求が出た」って言うんですよ。
僕らは普段、自分たちの暮らしでは”帰宅欲求”だなんていう言葉は一切使いません。
しかもなんで自分が家に帰るかを考えても「欲求だから帰る」なんて誰も思ってない。
小学校の四字熟語で“帰宅欲求”は習わない。
この業界に来て帰宅欲求という言葉を知って、認知症の人がここにいてもしょうがない、ここにいる意味や目的もないから次に家に帰りたいって言ったら帰宅欲求って言うんですよ。
しかもそれは症状だっていうんです。
これはとんでもない人権侵害です。
こういうことが普通に行われてるわけですね。
認知症の方だって嫌なことをされたら怒る。普通です
それから、皆さんは生まれついてからしばらくは何をされても無抵抗だったでしょ?
どこで股広げられようが何されようが無抵抗だったじゃないですか。
だんだん抵抗し始めるんですけども、お父さんもお母さんも「嫌なことされたら抵抗して良いんだよ」とオッケーを出すんですね。
日本は憲法で皆さんの人権を守ります。
だから、皆さんが電車に乗っていてケツを触られたら訴えることができます。
嫌なことされたら抵抗して良いんです。
でも、認知症の方が嫌なことをされたと感じて抵抗したら、“介護に抵抗する婆さん”としてチェックされます。
さらに抵抗したら、“暴言を吐く、暴力をふるう”となる。
本当にひどい話。
嫌なことされたら、怒るのは、普通。
認知症の方のおむつ交換をする場合はこういうことが起こったりしますね。
「誰々さんおむつ変えて良い?」って言ったら、「良いわよ」とかって言うわけですよ。
布団をめくりまして、着物をめくりまして、おむつに手がいくと「何すんの!」とバン!ってされたりするわけです。
つまり、一旦理解をしていても、理解を継続できなくなるのが認知症ですから、一旦は承諾をしても、次の瞬間にはそれはなくなっている。
だから、なんでこういうことがされるのか、自分でわからなくなって怒っても普通のこと。
それを介護に抵抗するだとか、暴力をふるうだとか、暴言を吐くだとかって言ったらおかしなことになっちゃう。