認知症になっても、当たり前のことは変わらない
「認知症の人」なんていないということを、皆さんにはぜひ知っておいてほしいです。
よく「認知症の人」って一般的に言われますけど、そんな人はいないです。
「人が」認知症になるだけです。
ですから、人として当たり前のことは、認知症になっても当たり前のこととして考えてほしいと思うんです。

例えば、急に後ろから「こんにちは!」と言われたら、皆さんはきっとびっくりするんじゃないでしょうか。
それは認知症になっても同じことです。
いきなり知らない人が近づいてきて「こんにちはお婆ちゃん」なんて言われたら、不審に思いませんか?
僕らは他人(ひと)様と関係を持つときには自分の方から名乗りますし、いきなり人のことを「お婆ちゃん」だとか「お爺ちゃん」なんて言わないですよね。
そういった、人として当たり前のことを忘れないでいただきたい。
それさえできていれば、大体は大丈夫だと思うんですね。
どんな姿になっていようと、人であることには違いがないのですから。
認知症になっても人権がある
僕の関係する施設で8年前、職員さんがちょっと目を離した隙に、認知症になられた利用者が施設の玄関から外に出られまして、一時間後に車に轢かれて死んじゃったんですね。
事故について警察署で事情聴取を受けたのですが、そのとき人生で初めて警察官の方にこういうふうに言っていただくことができました。
「いくら認知症だからって人権があるからな」
「認知症があるからこういう交通事故が起こっちゃうかもしれん。
だから一歩も外に出られないように閉じ込めたり、動けなくしてしまう。
それも手段としてあるかもしれない。でも人権があるからな」

こんなふうに警察官の方に言っていただいて、涙が出るような思いでした。
日本の社会が、「認知症になっても最期まで基本的人権が保障された人」として暮らし続けていけるように、いろんなことが取り組まれてきています。
皆さんが認知症になったときに隔離されたり閉ざされたりするんじゃなくて、市民生活をこれまでと変わらず送り続ける世界を実現するためにはどうすれば良いかを、一人ひとりが考え続けていかなければいけません。