棺桶に入って死ぬ直前に、自分は誰の名前を呼ぶのだろう
ここに来てくださった全員に関係すると思いますが、「棺桶に入って死ぬ直前に、誰の名前を呼ぶのかな」ってことを、僕はずっと考えているんです。
みなさんにも思い浮かべていただきたいんですが、「誰の名前が出てくるだろう」って考えたときに、たぶんとても良い人間関係を保ちたい人を描くんじゃないかと思うんですよ。

その一例として、とある婆ちゃんの話がありまして。
その婆ちゃんがまだ元気だった頃、町内のサークルに行くと、ちんちくりんの爺ちゃんがいたんですよ。
そのちんちくりんの爺ちゃんは婆ちゃんのことをとても気に入って、構ってくるんですね。
でも、婆ちゃんは爺ちゃんがちんちくりんだから嫌いなんですよ。いつも「嫌い!」って言ってて。
それでも、ちんちくりんの爺ちゃんは婆ちゃんのことが大好きで、あっちこっちに連れていこうとするんですよ。
婆ちゃんは「あんな人大嫌いだ!」とか言いながらも、爺ちゃんに連れられて、あっちこっちの温泉に行くんですね。
それから晩年、婆ちゃんは認知症になって、自宅で暮らしていくのが難しくなったので、特養に入ったんですよ。
でも、遠くの特養に入っても、爺さんは毎日通ってくるのよ、毎日毎日。
もう職員が鬱陶しいと思うぐらい通ってくるんですよ。
それから時間が経って認知症が進むと、婆ちゃんはだんだん娘の顔がわからなくなっていきました。
長男の顔もわからなくなった。
当然のように孫の顔もわからない。
でも、最後の最後まで、その爺ちゃんの顔はわかっていたんですよ。
今の人間関係を大事にすることが、認知症になったときの予防になる
僕ね、この話があって、自分は最期に誰の名前を呼ぶのかなってすごく気になるんです。
今みなさんは自分の配偶者がいらっしゃったり、子どもさんがいらっしゃったりすると思うんですけど、家族だからいろんな人間関係を抱えるじゃないですか。
例えば、嫁がいるのに愛人がいるなんて人も、この中にいるでしょうし。
最後の最後にみなさんが認知症になったとき、誰とどんな関係で生きていけるかを考えると、大事なことは認知症になってからじゃなくて“今”です。

やっぱり、「今」どんな人間関係を持っているかが、最期に全部結果として出ちゃう。
家族であろうが、隣近所であろうが、お友達であろうが、身の周りの人を今からちゃんと考えて大事にしておかないと、最後の最後に大事だと思っていた人から捨てられるかな。
だから認知症において、僕は人間関係を大事にすることが、とても大切な予防だと思う。
家族は大事にした方が良い。
友達も大事にした方が良い。
人間関係を大事にすることが、生活に支障が来たときにとても重要だと思うんです。