

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
医療や介護を通じるのが、国家間が一番仲良くなれると思った(湖山)
今年に入って“日本の介護を輸出する”というアジア健康構想が与党議員を中心にして活発に進んでいます。湖山医療福祉グループは先駆けて参加されて、現在中国上海市に中心部に604室の大規模介護施設を建設中と聞きました。


医療介護事業者の中国進出は、アジア健康構想以前にもありました。そのときは、うちは断った。結局、さまざまな日本の介護企業は中国進出を準備したが、2010年に尖閣諸島問題が起こり、政治的な問題でみんな撤退してしまった。介護の中国への輸出はどんどん進む予定だったけれども、多くの企業は合弁会社を解散撤収してしまった。
2010年前後、私はちょうど介護現場で働いていましたが、様々な介護事業者が中国進出を宣言したのは聞いていました。その後、どうしたのだろうと思っていましたが、尖閣諸島の問題で頓挫したのですね。


どこの国も隣国とは仲良くない。イギリスとフランスも戦争しているし、フランスとドイツも領地を取り合った過去がある。だから、国境がある。隣国と仲が悪いのは一般的なことだけれども、同じアジアとして仲良くしていこうってとき、お金を寄付する、技術提供するとか、様々な方法がある。私は医療や介護を通じるのが一番仲良くなれると思った。それがアジア健康構想に参加した一番の理由ですね。
2018年の報酬改定へ向けて、高齢者の状態を良くして社会保障費を圧縮しようという自立支援介護が議論されています。和光市をモデルにリハビリを重点分野にする事業、高齢者が改善した自治体に奨励金がでる財政インセンティブ、それに日本の介護を輸出するアジア健康構想と、それぞれ進行しています。


私は、本当に日中友好の一助になればというのが正直なところ。中国マーケットは大きい。私たちがつくった老人ホームが中国の介護分野の発祥の場となって、10年、20年経ったとき、中国の老人ホームの経営者たちがみんな湖山グループの現場で学び、業界をつくったとなればいいと。日本の医療も戦後に医師たちがアメリカに留学して発展した。それと同じようにうちが学びの場になるのであれば、大変やりがいのある事業だと。それだけで、いいと思っていますよ。
介護事業者の中国進出はずっと反対だった
アジア健康構想は国の経済戦略です。日本が先取りする高齢者医療介護をアジアに輸出して儲けようというプランです。大手の民間企業がビジネスとして興味を持っている。湖山医療介護グループはビジネスより、国際友好の意識が強いということですか。


医療・介護はその国独自の文化、担い手はあくまでもその国の人間であるべき、という考えです。医療介護は他の仕事と違い、その国の社会保障ですからね。例えば、小中学校の義務教育を外国の法人がたくさん建てるみたいなもので、それはありえない。言葉も文化も違う。その国の税金を使うわけだし。
介護保険制度で利益を優先せざるをえない民間企業が介護施設を運営しただけでさまざまな混乱があるのに、外資が小中学校までつくる、みたいなことになればもう大変なことですね。外資の社会保障分野の進出は、それと同じで無理があると。


私たちは日本の税金を使う医療保険制度、介護保険制度で運営している。そういった意味で医療介護は義務教育機関と同じです。またホテルやレストラン、居酒屋とは明らかに違う。だから日本の介護事業者がアジアに進出して、順風満帆に成功するとは全然思っていない。あくまでも中国の介護は、中国人がつくるべきですよ。
日本の福祉は北欧に多くを学んだようですが、先駆ける国がこれから取り組もうという国に教えることが世界の福祉の潮流にはあるのですね。


ほとんどの事業者はスウェーデンくらい見に行っている。外国から学ぶのは一般的なことです。でも外国の事業者が外国の税金を使って成功するのはありえない。日本の高齢者介護が外国と比べて進んでいるのは、たまたま少子高齢社会が早く来たから。もし中国のほうが先に老人が多かったら立場は逆です。それだけの話で。介護はマーケットが先にあったので日本のほうが成熟している。
先駆けた国の責任というか使命として、これから少子高齢社会になる中国にノウハウを教えようということですね。社会福祉法人をたくさん運営されているからこその発想ですね。


某国のトップが日本で手術しないと死ぬとなれば、どうですか。日本にミサイルを撃ち込もうとはならない。親があちらの国の老人ホームに入っていたら、戦争しようとはならないでしょう。国同士が喧嘩しないで、国民同士が仲良くなれる入口はスポーツ、オリンピックといろいろ。アジア健康構想は、湖山医療福祉グループ的には医療介護で共に必要として助け合うことであるととらえています。
国際貢献的な意識になると、当然民間企業は二の足を踏みます。アジア健康構想にはあからさまな本音と建前がありますが、湖山代表はそれを切り崩していこうと。素晴らしいですね。


教育事業として協力できるのは、うちくらいかもと思って参加した。ただね、話したとおり、介護事業者の中国進出はずっと反対だった。外国人が成功するはずがないと。中国人にノウハウを与えて、結果として追いだされるだけ。多くの産業が実際にそうだったでしょう。成功すれば乗っ取られ、失敗すれば責任をとらされる。アジアでホテルだのレストランだの、工場だの、あらゆるアジアの国々に出て行き、報われない結末になった人はたくさんいますから。
中国人が中国のための老人ホームをつくるということに関しては、大いに教育支援をしたい

中国は深刻に高齢者介護施設が必要ですよ。少子高齢化が日本で20年、30年かかりましたが、中国では10年でそうなる。日本では30年くらいかけて介護保険制度をつくって、老人ホームを増やした。それが中国は一気にくる。もう、おそろしい状況です。
そうなんですか。日本でも十分に急激な変化だったのに、とんでもないことですね。基本的なことをお聞きしたいのですが、中国で事業をするには、中国の会社と提携して合弁会社をつくらなければならないのですよね。


ここまで私の理念というか理想を言いましたが、現実は中国の不動産で金儲けしましょうって人ばかりでした。中国の事業は不動産開発がメイン。だから老人ホームをやるのも、デベロッパーが国から外国の介護のノウハウがある事業者と組んで、老人ホームをつくれと言われている。実際に中国が経済発展したのは住宅開発のせい。もうつくりすぎというくらいつくっている。国は建築許可をもう老人ホームにしか与えないという状況が背景にありますね。
中国の不動産業者が老人ホームの建物を建てて、日本の介護法人が運営するという計画なのですね。


中国には老人ホームしか建てられない土地が残っている。元々不動産デベロッパーは、その建築をやりたい。だから介護をやりたい事業者じゃないわけ。中国の高齢化はこれからだから、介護のノウハウは欲しい。経験のある日本の介護事業者と組めば、すべてうまくいくと思っている。
介護事業は最初のノウハウだけを学べば、外国人は必要ないですよね。介護は地域の人が地域の高齢者を面倒みる仕事だし、外国人より自国民のほうがサービス提供はやりやすい。


日本のノウハウを勉強して、中国人が中国のための老人ホームをつくるということに関しては、大いに教育支援をしたい。けど現段階、多くの日本の事業者は、中国に行けばこれから高齢化だから儲かる、中国の法人は建物を建てて儲かるという発想です。
アジア健康構想は、中枢に民間のブラック介護企業の人物も深く関わっていますね。メンバーを聞いて驚きました。彼らは個人の利益しか頭にないだろうから、湖山代表が掲げる日中友好、教育支援なんてまったく興味ないと思いますよ。


介護の海外進出は、多くの日本の事業者が思っているほど甘くない。中国側の社長さんが飛行機のファーストチケットを持ってくる。土地を見せますから湖山さん来てくださいと、知事に合わせると。行けば接待を受ける。でも全然、医療とか介護の話にならない。私は常に日本に視察に来なさい、と言っているけど、でも来ない。
日本を超える急激な少子高齢化が始まり、これから介護をつくっていかなければならないのに、どうしてなのでしょう。


日本を巻き込んで、人、ノウハウ、お金を自分のところに投資をさせたいということ。具体的にどういうことが必要なのか、学んでいかなければならないのかは、関心がない。日本から介護を仕入れて、それで事業ができればいいと。建物が建設できればいい。だからせめて、日本に来て「こういう老人ホームをつくりたい」「こういうサービスを中国に広めたい」という人がいたら、無償でノウハウを教えてあげましょうと伝えているけど、まだ実現していませんね。
あまりにもわかりやすい本音と建前。だから、正直無理がありますよ
湖山代表が強調する「介護はその国の文化」という大前提が、まだ中国側に伝わっていないのですね。実際に少子高齢化になって、介護の文化が始まって失敗を繰り返さないとわからないのかもしれませんね。


現場から文化をつくっていくしかないでしょうね。中国人で介護を志す人たちは、日本に来て研修を受けなさいと。その職員を一年間、うちで日本人と同じ給料を払う。日本で学んで帰って、本国で老人ホームの幹部になりなさいと。まさしく技能実習生ですね。
中国の急激に進行する少子高齢化と不動産開発、それに日本の介護の人材不足が重なって、すべてを解決する案として生まれた発想がアジア健康構想だったのですね。そこに湖山医療福祉グループは、建前でない介護を通じた国際交流、介護という文化をつくることを提案していると。


技能実習制度の問題点は「日本の介護事業者は労働力が欲しい」という、それだけでしょう。法律の問題で労働力を労働者として入れることができないから、勉強にきたという名目をつくって日本に入ってもらう。実際には安い労働力として使いたい。あまりにもわかりやすい、本音と建前。だから、正直無理がありますよ。ビジネスですから、それは危惧するようにブラックになりやすいでしょうね。
介護事業所のブラックには、もう辟易しています。一歩間違えば国際交流どころか、国際人権問題じゃないですか。


だから、うちは本音と建前なしに、本当に技能実習をする。上海で毎年600床をつくっていこうという計画で、その人材を養成するため、向こうの若いスタッフを常勤採用し、その人にも日本人と同じ給与を払う。日本の新卒400人にプラスして100人、200人の中国人が入ってきて、日本と同等の給与、同等の資格を取得してもらう。一緒に働いてもらえば、それが教育になる。だから日本で働く期間を5年って言っているところを、1年でいいのではないかと提案している。
もう、期待しかないです。今日はありがとうございました。アジア健康構想はまだ、危うい状況であることがわかりました。数十年後「私たちは、日本で奴隷介護労働させられた!」みたいな、そんなことにならないよう、湖山代表になんとかして欲しいです。
