

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
介護を山登りにたとえると、頂上さえ共有していれば、登り方はどこからでもかまわないわけです(加藤)
中村 前編は「あおいけあ」のグループホーム、小規模多機能をまわりながら、高齢者たちがイキイキと生活する現場を拝見させていただきました。加藤さんが考える自立支援をスタッフが理解できるか、できないかが大きいですね。


加藤 それはあります。多くの施設は、みんなで同じ施設で働いても登る山が共有されていなかったりします。経営者はお金儲けのこと、看護士は危ないからとか、介護職はレクレーションのことばかり、みたいな。
中村 自立支援を徹底する「あおいけあ」は、介護職の裁量が多くて業務が少ないように見えます。登る山が理解できていないと、とても勤まらないですね。


加藤 頂上さえ共有していれば、登り方は、どこの登山口から入ってもかまわないし、途中でテント使おうが山小屋を使おうがいいわけです。何日かかろうが。だからスタッフに経験とか介護スキルは、そんな問わないですね。
中村 新しい介護職には、業務を教えるわけじゃないですね。なんとなく溶け込んでいくみたいな感じですか。経験、スキルを問わないといっても人を選びますね。介護職にありがちな、前に働いた施設の業務を持ち込まれたら話にならなくなります。


加藤 そうですね。採用のときに気をつけているのは、本人主権が理解できない人を断るくらいです。経験者には、たまに苦労します。「どこそこの施設でやっていたけど、嫌だったのでうちに来ました」みたいな人は、たとえ採用したとしてももたないですね。
中村 「あなたは見られる人、私は見る人。私は専門職ですから」みたいな意識ですね。前の施設のやり方を主張するのは、女性に多い気がします。「あおいけあ」だけでなく、比較して文句を言うのは良くないですよね。


加藤 「支援してます意識が高い人」ほど、ここで働くのは難しいですね。地域包括ケアをやっていく中で、地域に入っていくのに白衣を着たままの人はいないでしょう。会合とか地域の集まりに、白衣を着て「私は医者ですから」みたいな人はいないわけです。それと同じです。
中村 専門性のある介護職の前に、まず地域の一員にならなければならないってことですね。


加藤 まず、人として地域に入らないと。多くの介護職は、専門性を持った“個人”が働いていることに気づいていない。私、専門職ですからって、個人じゃなくて“専門職”が入ってきたら役に立たないですよね。じいちゃん、ばあちゃんにとって、意味があまりない。
介護職を育てるのはじいちゃん、ばあちゃん。その大前提をなにもわかっていない(加藤)
中村 連絡帳には、職員が好きに絵を描いていますね。堅苦しい言葉がありません。これも、珍しい。


加藤 遊び気分で「今日はなにしたよ」みたいなほうが情報共有できるじゃないですか。自分の言葉だし。ぐちゃぐちゃでも、自分の言葉で楽しく書いた方が頭に入りますから。うちは稟議もなにもなしで毎日が進んでいくので、職員間の連絡帳は重要です。
中村 小規模ならではなのでしょうか。大規模の施設もユニット化していれば、できないことはないですね。みなさん、とても要介護度の高い認知症の方々には見えませんね。


加藤 それは困っていない環境にいるからなのです。多くの施設が今でも半世紀前の介護をして、それでもお客さんがくるから変わらない。胡坐をかいて、今までと同じことを繰り返していればいいと思っている。だから変わらないんです。
中村 加藤さんの解釈は、業務一色の多くの施設介護は時代遅れってことですね。介護保険法に添っていないってことになる。


加藤 介護職員の仕事は、本当は地域のデザイナーですよ。それなのに、高齢者のお世話係の域から脱していないし、施設や法人が本来の仕事をさせていない。お世話係だったらまだいいですよ。支配、管理係。鍵まで閉めて。優しい人たちが、そんな仕事を続けられるわけがないじゃないですか。
中村 まず、介護の仕事をしたいって専門学校に行くような子たちは、福祉マインドに溢れている人材です。どうしてこの仕事を?って聞いたら、「人の役に立ちたい」「じいちゃん、ばあちゃんが好きだから」って答える人たちです。


加藤 専門学校の卒業生のほとんどが一般企業に行ってしまうのは、実習で現場をみて、自分がこの仕事を10年も20年もできるのかと不安にさせるから。現実をみて、希望をなくしてしまう。今の人材不足の責任は、現状の支配の介護に胡坐をかく介護業界、介護現場の責任ですよ。介護職の質が悪いのではなく、介護現場の質が悪いんでしょう。
中村 先日、愛媛県の施設が新人職員に成長カードを配るとか報道されていました。しかし、社会人の大人相手に小学生みたいな成長カードって、いくらなんでも稚拙です。あと、安倍総理は勲章を配るみたいな発言をされていました。また、どんどん人材が離れていきますね。


加藤 介護職を育てるのはじいちゃん、ばあちゃんですよ。その大前提をなにもわかっていない。うちの施設だとじいちゃん、ばあちゃんが認めてくれるまで溶け込めない。基本的にばあちゃんたちが仕事をしているから、「あんた、ここに座りなさい」って言われるまで、その人に仕事はないわけですよ。
今の介護は、自分ができないことを平気で高齢者にさせる(加藤)
中村 加藤さんは、現在の介護にかなりの憤りを持っているように見えます。全否定的ですし。新卒で入職された特養の介護職時代に、その憤りが培われたわけですね。


加藤 いやいや、全否定しているわけではありません。リスペクトしている特養やサービス付き高齢者住宅もたくさんありますから。ただ、「我々だって頑張っているんです!」ってのを前面に押し出して変わることができないで開き直るのは違うと思うのです。
入職前の僕の介護のイメージは、お茶を飲みながら高齢者とほのぼのするみたいな感じだった。入ってみたら全然違って。紙一枚を渡されて、一日この通りに動けみたいな。マニュアルどころか、オートマチック。その通り、毎日こなしていくわけですよ。
中村 利用者に「ちょっと」って呼ばれても、ルーティンワークに追われているから対応できない。職員ばかりが忙しくしている施設ってことですね。


加藤 特養の介護職時代に一番納得がいかなかったのは、トイレの時間が決まっていること。ご飯の時間はまだしも、トイレ誘導の時間が決まっているから、尿意があっても行けないわけです。おむつにしなきゃならない。今の介護は、自分ができないことを平気で高齢者にさせるじゃないですか。私のいた特養だけかもしれませんけどね。
中村 まあ、そういう根本的な憤りが生まれてしまったら、辞めるって選択肢ですよね。さすがに末端の介護職が変えるのは難しい。


加藤 だから僕も辞めようって思った部類ですよ。たまたま、本を読んで自分で起業できるのでは?と思い込んでやっただけ。意識が高いわけじゃなかったです。最初は特養より人数少ないし、やりたいことができるかも、程度の感覚でした。今より、マシなことができるかな、くらい。
中村 当時の加藤さんと同じことを悩んでいる介護職は、今現在も全国にたくさんいると思います。どうすればいいのでしょうか。


加藤 難しいところです。若い人だったら諦めないで、ちゃんとしたところを探してそこで介護をするしかない。今のところは辞めちゃっていいと思います。どうしてかというと、トップの考え方が古いので変化を望まないから。若い子たちは被害者ですよ。介護職が悪いわけじゃなくて、トップが悪い。
中村 それと日常業務も、施設の作りも、すべて高齢者ではなく、施設の都合で作られていることを批判されています。


加藤 特養とか病院みたいな殺風景な空間で、一応自立支援を試みて「うちの高齢者は、料理する意欲がない」とか。そう言う人たちが多いです。それは、意欲がないわけではなく、その環境ではできないってだけ。ここで中村さんに「盆踊り踊って」っていうのと同じです。夜になって太鼓叩いて、櫓をくんで、音楽を鳴らして、初めて盆踊りが踊れるわけで。
若くてやる気のある介護福祉士に3,000万円づつ渡せばいい。それで小規模多機能を作れば、300人の高齢者をみれる(加藤)
中村 進歩のない組織を若い子が変えるのは、いくらなんでも敷居が高いですね。物事はそんな簡単には変わらない、まず無理でしょう。それと業務を徹底管理するライン業務も破綻という結果です。介護業界に希望が少ないです。


加藤 みんな辞めてしまって、特養とか一度機能しなくなった方がいいと思う部分もあります。特養を一つ作るのに、30億円とか税金が投入されるのです。100床だったら、ベッド一つに3,000万円ですよ。それだけ税金を投入しても、税収のバックはないじゃないですか。その借金誰が払うの?子ども世代ですよ?
中村 意識が高く、やる気のある若者たちは「起業しろ」ってことですか。さすがに介護保険が下がりっぱなしの今は、起業を薦められる状況ではないですが、それが一番の突破口というのはわかります。


加藤 特養を30億円かけて作るくらいならば、若くてやる気のある介護福祉士の子たちに3,000万円づつ渡せばいいんですよ。10箇所の小規模多機能を作っても3億円、1/10です。地域で290人の高齢者をみれますよ。地域作りも考えて税金も払ってくれるじゃないですか。公募にのっていれば交付金もでますから6,000万円の原資ができます。公的なお金がこれだけ出ていれば銀行だって運転資金貸してくれますしね。地域密着型サービスは地方分権されているわけですから、上手に使える自治体は福祉先進自治体になっていきます。
中村 安定してから独立とか考える人が多いですけど。本来独立は若いうちにやらないと意味が薄いです。成功率が違うし、結果がでるまでに10年間がかかったとしたら40代、50代に始めるのは遅すぎます。


加藤 創造的なことを考える賞味期限は短い、若いうちだけです。それから先は硬直したおっさんになる。若いやる気のある子たちは、なんとか工夫をしてどんどん起業して欲しいですね。それで、自分のやるべきこととしては、この「あおいけあ」の介護が成功した一つの例として、これをどんどん拡げて行かないと思っています。自分自身の拡大戦略志向はないのですが、同じ方向性のケアが出来る仲間の事業所を増やしていくイメージです。
中村 「あおいけあ」には、理想ではなく自立支援で高齢者がどんどんと改善している、という現実がありました。


加藤 そうです。みなさんに机上の理想を作って見せているわけじゃないのです。現実に高齢者がここでどんどん改善しているわけです。今はこの状況ですよってお見せできることがあるわけで、ここ一ヶ所だったら点の理想になりがちだけど、藤沢市に5ヶ所、6ヶ所あったら、これが常識だよねって状況になるじゃないですか。それは近いうちに実現させたいと思っていることです。
中村 今日はありがとうございました。大きな企業などからも、この「あおいけあ」の自立支援を本格的に展開するような話もあるようで。人材不足や離職の高さなどからわかるように、業務の介護は不幸な人が生まれすぎです。本当に期待しています!
