

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
数十年前に比べると、介護施設の質は向上した(沓澤)
沓澤さんはコンサルティング大手・船井総合研究所の介護医療部門、チーフ経営コンサルタントです。まだ年齢は32歳とか。若いですね、年齢を聞いて驚きました。ここは船井総研東京本社ですが、さらに東京駅前というとんでもない一等地で驚きの連続です。


船井総研は新卒をコンサルタントに育成するという方針の会社で、私が船井総研の中では介護業界に携わって一番長いです。社の平均年齢は29歳、会社全体が若いのですよ。立地にかんしてはクライアントが日本全国の経営者の方々なので、アクセスのしやすさ、ということで東京駅前なのかと。
資料があるので読むと。船井総研はあの有名な故・舩井幸雄氏が1970年に創業。元々は流通業、小売業の経営コンサルが中心で、現在はサービス業を主体に100業種強を手掛けている。社内の各経営コンサルタントが担当する業界に特化し、研究し、沓澤さんは介護事業を中心に病院なども手掛けていると。


業態で言いますと、私のクライアント様は、施設系もあれば、通所系もありますし、訪問系も。法人種別でも社福もあれば医療法人、株式会社など多岐に渡っています。
新卒入社して会社に経営について徹底育成されて、若くして第一線の経営コンサルタントになるわけですね。そんな方々が数百人集っていると。すごい会社ですね。


船井流経営法という経営方法がありまして、新卒入社した社員はその船井流を2,3年費やして学びます。講師は当社のコンサルタントですから、コンサルティングの成功事例から、なぜ結果が出たのかということをレクチャーされます。
介護の話になる前に、船井流経営法とは何かを教えていただけますか?


創業者の舩井幸雄が確立した、業績アップ理論・考え方を総称して船井流経営法と呼んでいます。その中で、「地域一番店をつくる」ということを目指しています。相対する考え方として渥美俊一氏が「チェーンストア理論」を提唱しました。我々船井総研は創業者舩井幸雄の意志を継いで、地域一番店をつくることを掲げてコンサルをしています。簡単に言えば、それぞれの独自固有の長所をいかにして伸ばしていくか、ということですね。
介護業界でも地域一番店がいいのか、フランチャイズのようなチェーン拡大がいいのか、みたいな議論は方々でありましたね。もうある程度、決着はつきましたが、長年結論はなかった。介護業界の視界の範疇では、チェーン系の思考でどんどん素人経営者を業界に引き込むコンサルには首を傾げました。正直、それで混乱まみれになったでしょう。

どの業界もプレイヤーが増えてこないと、サービスの質は上がってきません(沓澤)

確かに異業種出身で、介護のノウハウがない方がたくさん入ってきた時期がありました。おっしゃる通り、混乱をきたした部分もあれば、私はメリットもあったかなと思っています。事業所が増えたことで利用者、ご家族からすると情報量と選択肢が増えました。それは長期的視野で大きく眺めれば、メリットだったかなと。
中小零細の異業種参入が激増したのは、2006年~2011年くらいあたりですね。公的事業の介護は情報量と選択肢が増えても、持続継続できないと意味がない。介護で事業所間の競争を煽って、市場原理の競争こそ高齢者に利益として還元されるみたいなことを声高に言っていた経営コンサルは、混乱の責任をとらないし、やっぱりまともな人がいないとい印象があります。


そのような経緯でつくられた事業所は、前回の改正で続けられなくなって、閉鎖するところが多い。前々回の改正のときも潰れるところがありましたけど、前回改正は規模が大きかった。
目先の利益に走るコンサルにそそのかされて事業所開設しても、国の方針とズレて改正一つで潰れちゃうなら選択肢が増えても意味なくないですか。


それもそうですが、どの業界もプレイヤーが増えてこないと、サービスの質は上がってきません。一部コンサルが異業種から介護に誘導しすぎたのは事実と思いますが、プレイヤーが増えた現実もある。それによって利用者やご家族にとっては、それなりのメリットはあったのかなと。まだ介護業界は変革期、プレイヤーが増える施策は悪いことではないですよ。
それとコンサルの人がよく使う「介護の質」って言葉がわからないです。経験とスキルがあればいいのか、一生懸命やればいいのか、金があればいいのか、曖昧なんですよね。


ホテル旅館業で例えると、数十年前はビジネスホテルもなく、民宿みたいなのが一般的でした。ビジネスホテルが増え、サービスの均一化が進んだ。介護も同じでプレイヤーが増えれば、一定の水準はつくられるようになる。虐待はダメとか、暴言を吐いちゃいけないとか。当たり前なことができるようになったのが質の向上かと。進んでいる業界と比べると遅れていますが、全体の底上げになりました。
確かに虐待みたいな最悪なことに対しては、末端まで同じ認識はありますね。しかし、行政とか制度のせいもあるけど、介護業界は人材をまったく活かし切れていない上に、介護に向いていない失業者を受け容れすぎた。だから離職は高いし、混乱するし、人手不足が続く。


我々は経営コンサルティングというより、中小企業の経営者をコンサルティングするという意識。だからコンサルティング内容は職員社員の良いところを引きだす前に、まず経営者の良いところを引きだすというスタンスです。組織はトップで99.9パーセント決まりますし。
職員のいいところを引き出す、人材の最大公約数を目指すという観点でいうと、トップが変わらない限りは難しいことになりますね。すべては経営者の采配や力量ということか。確かに、そうかもしれません。

事業再建よりは、成長のサポートを得意領域としています(沓澤)

失業者を受け容れて人材の質が低下している、という指摘については、時代背景が大きく影響しています。介護保険で様々な業種から民間が入ってきた。2008年にリーマンショックがあって不景気になり、介護も医療も同じで保険制度の業界は不景気に強い。そのタイミングで介護事業者が激増したことが、時代背景でいうと大きな理由かなと。
当時、多くの介護コンサルは人材管理やマネジメントが同じと居酒屋など、飲食業者を熱心に引き入れた。著しく顧客に偏った洗脳紛いの理念の叩き込みやブラック労働、低賃金の給与体系が飲食業界から持ち込まれ、現場がおかしくなったという印象です。それによって膨大な数の能力のある介護職や専門職が介護業界から逃げた。本末転倒な結果でしょう。


不景気ということもあり建設会社やゼネコンは、高専賃をどんどん建てました。建物優先で事業所が増えて、リストラにされた方などが働き口を求めて介護に流れた。そのまま高齢者が増えたので、介護業界の構造が歪になった現実はありますね。
介護は産業全体が荒れている。なので、優秀な人材を採用できない。深刻な問題だと思いますが、それはコンサルとしてどうするのでしょう。


コンサルタントにはいくつかパターンがあります。船井総研は基本的に事業再建は引き受けていません。うまくいっている会社がよりうまくいくこと、成長のサポートを得意領域としています。クライアントさんは前向きな経営者がほとんどで、とにかくいい部分を徹底的に伸ばすというスタンスでやっています。
うまくいっている前向きな方はフォローがなくても現状維持できると思いますが、どういう役割で経営に介入するのでしょう。


例えば事業拡大しますとなったとき、次の事業を何にするかとか。人数が増えてくれば、当然ポジションをつくっていけないとけないのでキャリアパスを構築したり。現在は全国的に人手不足になってますから、人員基準は決まってますけど、より生産性を高く運営する体制をつくっていくかとかですね。
社長や理事長のやりたいことを実現するためのサポートに徹しています(沓澤)
コンサル繋がりってことで、沓澤さんに言ってしまいますが、介護業界は職員のモチベーションを上げることを目的にした、精神論に特化した洗脳紛いのセミナーやイベントが目立つ。正直、迷惑。あれはコンサルが仕掛けているでしょう。勘弁してほしいです。


まあ、そういうコンサルもいますよね(笑)。職員のモチベーションを上げるのが得意な方と、苦手な方がいる。得意な方はそれをやればいい。得意じゃない人に理念を唱和しましょうって提案しても、会社には絶対に馴染まない。モチベーションを上げる目的はよりよいサービスを提供するためとか、数字でいえば定着率とか、モチベーション上げたい理由がある。定着率を上げたいなら、唱和以外の方法もあるわけですから、そちらを提案させてもらいます。
キャリアパスとか賃金アップとか、生産性の向上とか具体的なことがないまま、洗脳みたいなやり方は、傍から見ていると本当におかしい。宗教的な手段を持ち込むと業界も職員も分断する。どんどん人が逃げだすので、業界にとってはマイナスです。


そうですね。細かい施策になってしまいますけど、ミーティングの方法を変えましょうとか。頻度を変えましょうとか。定期的に飲み会をしましょうとか。年に一度経営発表会を開催して表彰しましょうとか。自分で伝えるのが不得意であれば、映像をつくって伝えましょうとか。
表彰ですか。どこかの行政が介護職の成長カードとか施策をやって、カードのハンコが貯まって成長したらなにか表彰するとかやっていました。大人相手に小学生みたいなことして……と批判的な感想です。


年に一度の経営発表会はどの業種でも基本的にやっていただいていて、今期どういうことをやっていくのか、あとは頑張った職員の表彰です。それを会社全体でやる。そこに職員さんだけじゃなく、職員さんのお子さんとか来てもらって。お父さん、お母さんが頑張っている姿をみるという。
そうですか。コンサルや経営者が計画した場面で表彰されて、モチベーションが上がるところを、子供が見るとかキツイなぁ。自分では考えられないですね。どうして職員はもっと自立できないのかなぁ、と思ってしまいます。


我々は前に出ません。コンサルが入ってることに関して、ネガティブにとらえる職員さんはいる。おっしゃる通り、若造が偉そうに何言っているの、みたいなオーラを感じることもある。それは状況を見据えて、直接職員さんと話をさせてもらった方がいいのか。それとも経営者、管理者とだけ打ち合わせた方がいいのか。それは法人ごとに様子をみながら調整していますね。
介護職は介護現場を経験している人以外と会話しない、できないみたいな人が多い。現場が関わる部分の介入は、相当気を使うでしょうね。


それに私も若いし、船井総研全体でも平均年齢は29歳と若い。多くの社長さんからみれば、若造です。僕自身は経営者を変えるみたいなことは一切考えてなくて、社長なり、理事長のやりたいことを実現するためのサポートに徹しています。船井総研の考え方で言うと長所進展、反対は短所是正。短所を是正するコンサルティングはやりません。
経営者の得意分野を伸ばし、経営者によって職員の長所が伸びればというやり方ですね。理想だと思います。コンサル全般に対して個人的に猜疑心が強く、突っ込みが多くて申し訳ありませんでした。後半も引き続き、お願いします。
