

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
外国人介護を目的とした、人材ビジネスを利用している(陶山)
中村 外国人介護職の受け入れが話題になっています。昨年11月に外国人技能実習制度の法案が国会で可決されました。外国人介護職の受け入れ拡大は介護業界だけではなく、国民全員がかかわる大きな問題です。日本介護クラフトユニオンは、この法案に反対の立場と聞きました。


陶山 外国人技能実習制度が入ってきても、介護の人材の不足は解消しません。国は2025年までに介護職38万人が足りないって言っているが、技能実習制度はその解決策の一つにしかなりません。
中村 厚生労働省による介護職の平均賃金と同じく、38万人足りないという数字も怪しいと聞きます。都道府県の介護人材確保施策の成果を100パーセント織り込み済みとか。


陶山 外国人技能実習制度は、出てくる人たちのその国の制度で選ばれて、日本に研修に来ます。来日前に手数料などの「渡航前費用等」の名目で母国の送り出し機関等に多額の借金をして金銭を支払っている実習生は多いと聞きます。また、実習先が管理団体に「監理費」を支払い、その分だけ賃金が低く抑えられることも問題となっている。
中村 渡航費や住居など、日本で生活するために必要なものはたくさんある。まずその費用負担、ブローカーの中間マージンか。それぞれの国の人材派遣ビジネスにお金が流れるわけですね。日本の介護ベンチャー経営者も外国人介護職に目の色を変えているから、人材ビジネスで儲けるつもりなのでしょうね。


陶山 政府が相手国と協定を結び、送り出し機関への指導・監督を強化することが必要ですが、協定締結の努力義務だけで実効性が不十分です。日本に来る外国人労働者の多くは、それぞれが何かしらの借金を背負ってスタートすることになります。
中村 90年代前半の中国人の不法入国と同じだ。マフィアに大金を支払って、大きな借金を抱えて日本に入国。日本の治安の悪化が大問題になって、歌舞伎町などでいくつもの凶悪犯罪が起きています。合法的な入国としても借金を背負わせれば事情はたいして変わらない。介護とは関係ないけれど、外国人実習生の問題は危機管理的な視点も必要です。

日本語のコミュニケーション取れない外国人には、介護の仕事はできない(陶山)

陶山 それと日本語のコミュニケーションです。EPAで介護現場に就いた人たちは、元々向こうで看護師をやっていたとか、専門職の人。だから能力的なものは高かったけど、今回の外国人技能実習制度は素人に近いですから。専門性は低く、さらになにが壁になるかというと、まず日本語能力が課題になります。
中村 EPA以外でも、すでに現在、介護現場で働いている外国人の方々はたくさんいます。彼らは自国では上層な人が多くて、視界の範疇では普通に活躍している人が多い。しかし何千、何万単位で受け入れると、なにもわからない人も増えてくる。


陶山 これから日本語能力が全然ない方たちが入ってくるでしょうね。今までの実習生は技能系でした。技能系にしてもコミュニケーションはあるけれど、それほど複雑ではないと思います。しかし、今度は人が相手の介護。同じ日本人でも、一対一のコミュニケーションでケアするのは並大抵の技術ではない。だから、日本語ができない外国人に介護は困難だと言っているのです。
中村 まあ、介護サービスの中には“服薬”とか重大な仕事もあります。円滑なコミュニケーションが人の命にかかわってくる。そのように現場の現実を政治に伝えながら、外国人技能実習制度に反対してきたわけですね。


陶山 でも法案は衆議院、参議院と通ってしまった。外国人技能実習制度に介護を含むことを決めたのは政府です。私どもは連合とともに反対を貫きましたが、介護人材不足は背に腹は代えられない、というのが国の考え方。困るのはこの制度に本音と建前があること。本音は働く介護人材が少ないから外国人を入れる、これが本音。ところが、技能研修制度というのは国際貢献という建前がある。こちらに呼んで5年経ったら戻ってもらい、自国で活躍してくださいと。
中村 昨年、貧困問題に本腰をいれて取り組むフリーライター・鈴木大介氏と「貧困とセックス 」という本を作ったのですが、彼は、人手不足の産業に貧しい国の人を使う戦前からの日本の体質を猛烈に批判していた。現在は深刻な貧困問題が起こっていますが、それは後進国の方々を使い捨てて放置し、貧困の遺伝や遺恨を残してしまったことが原因だと。


陶山 もう決定してしまいましたからね。クールジャパンといって、日本の介護を輸出するって話があります。介護技術の国際貢献ならば、そっちでやればよかったのに。もうすぐ技能実習制度の名のもとに、続々と外国人介護職がやってきます。
中村 まあ、介護業界の個人的に注目する民間ブラック企業の人たちは外国人技能実習制度に前のめり。外国人に当然のようにブラック労働させるでしょう。で、使い捨て。それに5年後に本当に帰ってくれればいいけれど、それぞれの思惑があって日本に来るわけだし、そうはいきませんよね。


陶山 失踪者が出るのではないでしょうか。現在の外国人技能実習生の課題といえば、賃金の搾取や強制労働。劣悪な環境にいる方々が我慢できなくて失踪するケースもあると聞いています。その数、なんと年間6000人近く。その人たちがどこに行っちゃったかといえば、不法就労でしょう。
中村 介護の人材不足が発端となって、それが日本崩壊の一端となるわけですね。介護業界が加害者となって、残酷な結末を迎えそうでおそろしいです。

外国人介護を雇うとしても、介護職は最低賃金であることに変わりはない(陶山)

陶山 入国管理法では単純労働者は対象に入っていませんでした。介護は本来、単純労働ではないですが、制度上は単純労働者に分類されています。技能実習制度は、目的が国際貢献なので直接入管法が崩れたわけではありませんが、本音の意味から考えれば問題があるということです。
中村 陶山さんは、少なくとも日本語能力がある人材でないと介護は不可能と主張されたと。


陶山 日本語能力は一つの課題ですから、全然伸びないとなると、お帰りください、となる可能性はある。だったら失踪しちゃえ、ということもあるかもしれない。もう、それは実際にやってみないとわからないわけです。ある程度、日本語研修した人が入ってくるならまだしも、まったくの素人であったら、たいへんなことになります。
中村 政府は一応、本国との窓口になる監理団体や、受け入れ先となる企業の監督を強化するとは言っています。パスポートを取り上げることも罰則をもうけたとか。


陶山 監理団体が機能するか、しないかですね。今まで入れた方々になにか問題が起こったら、監理団体は指導できるようになった。
中村 反対した法案が通ってしまった。これからは監理団体が機能しているか、日本語研修が進んでいるかなどを、監視や提言をされていくわけですね。


陶山 問題はこれからなので、我々がどういうスタンスになるか明確ではないですが、どういう課題が起こるかを注意深く見ていかなければなりません。しかし、このままでは日本人介護職が働けない環境になる。技能実習生は基本的に日本人と同じように雇いなさいという制度なので、労働条件は最低賃金に張りつく可能性も指摘されています。
中村 介護職のさらなる賃金低下の要因にもなると。まあ、現場労働者は外国人と日本人で二段階にはならないだろうから下がりますよね。


陶山 同じ仕事だからね。そうなると、今でも介護現場で働く人が増えない深刻な状況なのに、ますます日本人労働者の条件が悪くなる。日本人で働く人は、もっといなくなる環境も可能性としてはありますよ。本来は、日本人介護職が日本人高齢者をケアする環境をつくるべきであり、その大前提は、介護職の処遇改善を進め、介護を人の集まる魅力ある業界にすることでしょう。
介護業界は中途採用が多く、ボーナスが入らないこともある(陶山)
中村 外国人の一般人、普通の方々が日本の介護という世界で成功できるか、できないか。現在も失業者を介護に誘導している状態だし、クオリティーは別にして現場業務はできるとは思う。やっぱり日本語コミュニケーションが課題になってきますね。


陶山 ハローワークでは介護業務に誘導することも多いと思う。でも、結局短期間で辞めちゃう人が多い。それと、介護職が足りないので、派遣会社から派遣されてきた同じ職務の人と労働条件が逆転することも問題になっています。
中村 政府主導の社会保障の縮小で、どうも賃金は上がりそうにない。外国人は入ってくる。おそらく、現場の介護職が外国人の研修もやらされて、業務は増えるばかり。お話を聞くほど、先は真っ暗ですね。


陶山 今、議論されているのはキャリアアップに伴う定昇制度。介護職の賃金体系をみると、どんな年齢で入職しても賃金は同じくらい。他産業の一般的な会社は、年齢とともにS字カーブで上がって50歳代で平行線なる。介護職も最初のうちは他産業と同等か多少よいのですが、昇給しないので家族を養っていけず、人材が逃げてしまう。
中村 結婚して子供を産んで育てて、というカーブになっていないわけですね。男性職員の寿退職はずっと話題になっています。今の介護業界は、若い人たちに結果的に自分の人生を諦めさせてしまうような仕組みになっている。それには、つくづくウンザリしていますよ。


陶山 だから賃金体系をつくらなければいけないんです。それが今議論されている、新加算の新しい考え方です。経験、資格、評価でキャリアアップを賃金制度に結びつけるという。企業の運営まで国が指導できないから、定昇制度を作ったら、1万円を出しますってことですね。
中村 介護職への加算は最初、無条件から始まって、だんだんと条件がついている。国は介護職が定着して、他産業へ流れないようにしたいわけですね。


陶山 私どもでも、離職した方々の原因を調べました。介護業界は中途採用がすごく多いんです。その方々が前職と比較して問題視するのが、ボーナスと賃金体系です。一般企業はボーナス年間3~4か月は出る。しかし、介護業界は良くて2か月、ゼロでまったく出さないところも多い。
中村 まあ、普通に考えて定昇してボーナスが出る仕事をしますよね。さらに最低賃金に張りつく可能性のある外国人技能実習生という爆弾を抱えると。今も希望はないけど、さらになくなるわけですね。


陶山 自分が望んで介護業界で働き、公私ともに自己実現ができる。そういう世界にしなければ、やっぱり日本人は続かない。そのための加算にならないといけない。本来は介護職たちが労働組合をたくさん作って、企業と交渉してやればいいけれど、事業所運営の根幹となる介護報酬は国が定めるから限界があります。だから、問題は複雑なのです。
中村 介護の職業別労働組合である日本介護クラフトユニオン前会長であり、現顧問の立場からの貴重なお話、ありがとうございました。介護職の報酬アップ、離職ストップは非常に難しい問題ですが、粘り強くなんとか実現してほしいです。
