

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
介護側と医療側が適切な情報交換ができる関係性がつくれることが必要(田中)
田中公孝先生は33歳と若い。専門は家庭医療医で、介護職の方々との交流を積極的に行われています。半年前、東京三鷹市に訪問診療の「ぴあ訪問クリニック三鷹」を開業し、主に在宅要介護高齢者の診療をされているとか。


地域包括ケアシステムが本格的に動きだし、医療と介護の連携は急務という状況です。研修医の頃から介護業界のことは気にしていて、サービスの質が均一でない、医療と連携する関係性ができていないという問題意識はありました。だから、自分から積極的に介護職の方々とかかわる場所に出ていくようにしています。
介護業界は人手不足で、無資格未経験の人を続々と入職させている状況。医療との連携、専門性と言われても、優秀な介護福祉士ならわかるだろうけど、多くの現場の人はピンとこないはず。介護職は医療と連携するため、なにをすればいいのでしょう。


私は訪問診療なので、在宅の訪問介護、訪問看護、訪問薬局の方々と組んでケアをします。チームを組んでケアするにあたって、医療側からはやはり適切な報告というニーズがあります。患者さんには介護職の方々が一番身近な存在なので、いつもと違う異変だったり、血圧の数値とかを適切に伝えてほしいですね。
現在、介護職はなりたくてなっている人ばかりでない。大きなバラつきがある。医師のニーズを理解して報告する職員はベテランで少数、言われたからとりあえず報告するみたいな人がほとんどで、ニーズからズレているとか、まったくなにも報告しないとか、足並みは揃わないでしょうね。


介護職の専門性は、やっぱり高齢者を身近で見続けているということ。積極的に医療と連係して経験を積んでもらって、医療側と適切な情報交換ができる関係性がつくれることが必要ですね。あとは認知症の周辺症状とか、問題行動と呼ばれていることに関してですね。
介護には「徘徊するので医療に薬を出してもらって、歩かないようにさせよう」みたいな発想の人がたくさんいます。


そのような方は多い。お薬でなんとかしてくださいって言われても、薬で適切にコントロールできることはあっても、状態が悪くなることもありえる。認知症の問題行動は、介護側の日常の環境調整でなんとかできることももっとあるはずだと思っています。また糖尿病の薬だったら、ご飯をこれくらいの摂取したら飲まないようにするとか。お風呂の血圧の基準とか。医療の知識を持ちながら、医療側のニーズも把握しながら、高齢者の日常を支えるのが私たちが期待する介護職の専門性だと思います。
現在は、医療と介護で交流会・連携会をやりましょうという状況(田中)
医師の訪問診療は、せいぜい2週間に1度か月1度。介護職は医師の代理として、高齢者の生活を支えるという一面もあるわけですね。健康な状態のときは介護、異変が起こったら医療が支えるという役割分担。確かに適切な報告が最も重要です。どの状態で報告するべきか、まず経験と知識がないとわかりませんね。


そのあたりのことは理解しているので、地域包括ケアが本格的に動きだしたことで医療と介護の交流という場が増えています。地域で開催されるそういう場に率先して出てきてほしい。
ただ、介護側には「医師は電話に出ないし、我々を見下して相手にする気がない」みたいな認識の人もいます。しかも、思ったよりも多い。現場でも昔から看護師が偉そうで嫌とか。今までの経緯では、医療と介護は分断している印象があります。


電話にでない、見下すのは、主に上の世代に多いかもしれませんし、医療側も変わるべきところだと思います。ただ、医療と全然接点が作れないみたいな地域もあると思いますが、今は地域包括ケアの流れで、地域ケア会議をやりましょう、交流会、連携会をやりましょうという状況になっている。やっぱり介護職の方々も時間を作って、そういう場に出てきてもらうのが一番いいです。そこで普段の疑問をぶつけてもらえば、答えます。そういう場で交流して対話するのは、お互いが歩み寄る一つの手です。
医療も介護も今まで閉塞した業界だった、意識を変えることが必要ということ。お互い今はアウェーでも、対話して距離を縮めないとなにも始まりませんね。


医療のほうも反省するところは反省して、やっぱり患者さんのために地域のために、って考えないと。既存の法人にいたりすると、連絡はケアマネだけでいいとか、下手したら介護の人たちとは連絡しないみたいな。一方向。そのやり方では「あなた方は患者さんをみているの?」って疑問は湧きますよね。
しかし、医師は日本社会のヒエラルキーの頂点に近く、逆に介護は全産業の中でもっとも賃金の低い底辺。やっぱり余裕のある上の立場の方々が門戸を開かないと、距離を縮めるのはちょっと難しそう。


医療と介護の間で対話することはもちろんですが、それだけでなく地域と対話していく必要があります。目線をフラットにして付き合わないとこれからの時代は厳しい。昔からいる地域の町医者でも、ヒエラルキーを自然と出す方はけっこうまだいます。医者からの指示が絶対で、向こうは指示を受ける側であるという考えですね。
鶴の一声で、関係をシャットダウンしてしまうと。これから地域包括ケアで在宅高齢者をたくさん支えていかなきゃならないので、医療だけでは手に負えないはず。そこで自分の代わりに患者を見てくれる介護を拒絶すると、まず患者さんのためにならないですね。

チームプレイとして、効率よくやっていかないと質は上がっていかない(田中)
これから要介護高齢者は病院を出されて、どんどん自宅で過ごすようになる。訪問の診療と訪問看護だけでは、とても生活を支え切れない。介護職の手を借りないと、とてもまわらないってことですよね。


そうです。今は本当にニーズが膨らんでいる。一部の訪問診療が集中している地域を除けば、患者さんのパイの取り合いみたいなことはないですね。高齢化が進んでいくにつれて患者さんはどんどん増えます。実際に病院からは難しい患者さんでも在宅に戻しているし、私が研修をはじめた頃に比べれば、病院から自宅に帰れる基準というのが著しく緩くなっています。
脳梗塞だったりガンだったり。以前なら、入院しているはずの患者さんが、どんどん自宅に戻る。それは社会保障削減が主目的ですが、本当に自宅で過ごしたほうが削減になるのか。まだ微妙ですね。


在宅のほうが労力は多い。我々は1人1人の患者さんを取り巻くチームを組むのですが、1人1人メンバーが違います。ケアマネさんもそれぞれ違う居宅で、訪問看護や訪問薬局もそう。いろんな業種とコミュニケーションをとれなければならない。患者さんは増え続けるので、組む人数もどんどん増えていきます。
患者1人1人ケアマネが違って、チームを作ってとなると、どう考えても非効率。無駄が多いですね。介護職にニーズと異なるズレた報告をたくさんされただけで、業務がストップしちゃうじゃないですか。


確かにやたら電話がくると、こちらも疲弊しますし。全然報告が来ないと、大丈夫かなと心配になる。普段から訪問介護だったり、ケアマネだったり、生活に寄り添う方から適切な報告、適切なやり取りというのを本当にサッカーチームみたいにチームプレイとして、効率よくやっていかないと質は上がっていかないでしょう。
チーム内で連絡がとれない、相手の顔も見たことがないという状態の人もでてくる。未完成な状態で、患者さんの生活、人生を支えるというのは厳しいかも。


今でも厳しいですけど、これからはさらに厳しくなります。医療側としては在宅プロフェッショナルのケアマネさんが欲しいですね。重症や困難ケースを率先してやるケアマネさんが増えれば、それだけで質も効率もよくなって助かりますね。
在宅は書類作業が多いので、ケアマネの方もなかなか準備ができない(田中)
医療と介護の連携、繋ぐ役割はケアマネがキーパーソンになります。これからの地域包括ケアでは、どのようなケアマネが増えればいいのでしょうか。


医療と介護を繋ぐ役割。訪問の介護職の方々は日々の介護だったりやることがある。医療も医療の目線で見ながら、リハビリのアドバイスはできますが、なかなか介護のことは詳しくない。医療と介護の間にいるのがケアマネージャーで、こういう病気だからこの医師に頼むとか。この訪問介護、訪問看護に頼むとか。地域に特化した専門性はほしいですね。
地域の社会資源を知り尽くして、チームビルディングができるケアマネですか。医療から介護まで多岐に渡る知識や能力が必要、なかなか敷居が高い人材像ですね。


個人的には地域のケアマネさん向けに、末期の患者さんの状態の見方みたいなことはお伝えしています。亡くなる一週間前はこういう症状がでて、2,3日前はこうなるので、家族にこういった説明を入れていけばいい看取りを迎えられるみたいな。
ただケアマネも、介護職も目先のことで忙しい。医療介護の連携になると、かなりの勉強とか意識改革が必要なはずで、そんな余裕があるのかと思いますね。やっぱりこの大変革時にずっとやると言っている書類の半減、効率化は必須ですよ。


在宅は書類作業もすごく多い、おっしゃる通り厳しいです。ただ、本当に高齢者の数が増えているので、高齢者はケアマネを選びたくても選べない、包括や市はどんどん順番にケアマネに高齢者を流していく。流れは止まらない、なかなか準備ができないんです。
書類負担が減って、同じチームでできるだけ多くの高齢者を支える。早急にそうなっていかないと破綻するかもしれませんね。


わかりあっている人と組むのが効率的で、質も上がる。それが叶わないなら、様々な人と組める多様性だったり、業務効率を改善して、なるべく連携に時間をさけるようにしていく必要があります。
地域包括ケアシステムは中学校単位の広さとすると、在宅医療介護関係者が全員知り合いという状態も不可能ではないですね。現在はそのための連携中ということですね。やはりケアマネ中心に医療介護の会合は参加することは必須ですね。


今は国も地域ケア会議を定期開催しようと言っているので、連携を目的にした会合は増えている。現場の困りごとに直面していれば、その場所に出席することが、地域の医療と介護がフラットな関係を作るためには大事だと気づくはず。連絡しやすい関係がないと、逆に非効率になって自分たちが苦労しますから。
医療と介護が連携しなければならない時代になっていることはよくわかりました。後半も引き続きお願いします。
