

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
私自身が介護現場で働いてきて、介護現場には対話が足りないと思っていた。あらゆるところで不足していたので、誰かと対話ができる場所が欲しかった。(高瀬)
中村 高瀬さんは介護にかかわる人々が集い対話する“未来をつくるkaigoカフェ”を主催されています。月一の開催で、すぐに予約で満員になる人気です。そして今月12日、初めての著書『介護を変える未来をつくる~カフェを通して見つめる これからの私たちの姿~』(日本医療企画)を上梓されました。まず“kaigoカフェ”について教えてください。


高瀬 私自身が介護現場で働いてきて、介護現場には対話が足りないとずっと思っていました。入居者に対してもそうだし、スタッフ同士もそうだし、地域に向けてもそう。あらゆるところに対話が不足しているし、私自身もうまくコミュニケーションがとれない状況はあって、誰かと対話ができる場所が欲しいと思って始めたことです。
中村 介護職はもちろん、医師や看護師、理学療法士や作業療法士など専門職から、介護経営者、周辺事業の方々など、様々な人が集まっているようですね。著書には写真がたくさん掲載されて、活気ある雰囲気は伝わってきます。


高瀬 介護職はチームケアなのに業務に追われて、時間がない。それに加えて元々控えめで自分を主張するのが得意ではない方が多く、自分自身も同様に自分の考えを言葉にして伝えるのは苦手でした。同僚だったり、他職種に対してうまく言いたいことや自分たちの専門性を伝えられなかった。介護現場には対話が足りないし、介護職には対話力が足りない。それで“kaigoカフェ”みたいな場所があれば、と思いつきました。
中村 高瀬さん自身がコミュニケーション苦手だったのですか。へーそうは見えないですね。苦手って、どういうレベルですか。


高瀬 相当です(笑)。同僚や上司、看護師をはじめ他職種など一緒に働いている仲間に対してうまく伝えられなかったり、コミュニケーションギャップがあらゆるところで起こっていました。まず私自身が人見知りで、控えめな性格でしたし。介護やる人って、私のようなタイプは多いですよ。
中村 まず介護職のマイナス点は日常が閉塞することでしょうね。日常は自宅と施設の行き来だけで、人脈も広がらない。第三のコミュニティーは本当に意義あることと思います。主催が高瀬さんのような現場の人だと行きやすいだろうし、自分も相当孤独だったので現役だったら参加したかったです。

コミュニケーションが苦手な人が集まっても、わかりやすいテーマがあれば会話ができる(中村)

高瀬 私と同じように介護現場で孤独を感じているというか、自分自身は前向きなことを思っていても、共感してくれる仲間に出会えなかったりする。介護をよくしたいって思っていても、浮いちゃう存在になりがちです。でも、ここに来ると、みんな前向きな人なので仲間になれる。仲間がいると頑張れる。
中村 活気ある写真をみていると、おそらく30代を中心に様々な年代の人が集まっていますね。高瀬さんの適度にユルイ、ほんわかした雰囲気が信用されるというか、近親感がわくのでしょうね。


高瀬 職場以外の外に前向きな心を持った仲間がいると、自分の働く現場に帰っても、自分自身や業務を客観的に見られたり、前向きな提案ができたりします。そうやって自分が変わると、職場でも仲間が1人2人と増えたりする。それで、少しづつ介護を変えていける。外の繋がりを刺激やパワーにして、それぞれの介護現場を変えていこうという主旨はあります。
中村 実は僕もかなり重度の人見知りで共感できるのですが、コミュニケーションが苦手なおとなしめの人が集まって大丈夫なのでしょうか。慣れて普通に喋れるようになるまで時間かかりそう。フォローしてあげてほしい。


高瀬 当然、フォローしますし、おとなしい性格の人の方が、人を求めているんですよ。おっしゃる通りに私みたいな主催者だと来やすいし、優しい人が多いからすぐに溶け込めます。ガツガツしたベンチャー企業の経営者みたいな人が主催だと、ちょっと来にくいじゃないですか。自分みたいな介護職が参加しても、居場所がないだろうなって思うだろうし。
中村 丸4年やって100回近く開催しているってすごいですね。人材育成、健康寿命を延ばす、介護保険法改正、高齢者住宅に求めるものなどなど、旬なテーマを掲げて話されています。まあ、わかりやすいテーマがあればなんとか知らない人とも会話ができるか。なるほどね。


高瀬 いわゆる勉強会ではなく、話をしながら肌感覚で気づきを得ることで、理解から実現へと移行するスピードが変わる。カフェらしさをだすというか、リラックスしたムードをつくるためにも、スイーツを出しています。リラックスするほどしゃべれるし、アイディアも出てきますからね。
介護職は重労働、低賃金、みたいなアピールばかり。そう言っちゃうと、介護に就こうって人も増えていかない(高瀬)
中村 第三のコミュニティーで上司や同僚以外と対話することによって、プラスの連鎖が起こることはわかりました。ただ、自分の職場だけでは完結できない方々が集まるとなると、例えば僕みたいなネガティブな人もいると思う。そういう人は受け入れてもらえるのでしょうか。


高瀬 そういう人もいますよ。対話していく中で、だんだん意識が変わってきます。自分はこのままじゃまずいかな、みたいな。来ている人は基本的にポジティブな方々なので、今の現状をなんとかしたいと思っていますね。
中村 介護のポジティブな人たちの大きなダメなところを指摘させてもらいたいけど、彼らは現実に蓋をするじゃないですか。人手不足、低賃金、ブラック労働でかなり厳しい状態にあるけど、そこは見て見ぬふりをするというか。


高瀬 うーん、そうですかね。今の日本社会は介護に対してマイナスの風潮を助長しすぎているところがあると思います。テレビも新聞もネガティブなことばかり報道しているじゃないですか。
中村 低賃金、重労働の過酷な職場に男の子がでてきて、涙流しながら寿退職するみたいな報道ね。でも、それ事実だし、そういう報道されるのはマイナスの風潮を助長するような現実があるからですよ。強引にポジティブ思考で乗り切っても、根本の原因を改善しないと意味ないですよね。


高瀬 マスコミ報道は客観的に見て、なにもかもマイナスが多いと思います。重労働、低賃金みたいなアピールばかり。事実であってもある一面を強調している。そう言っちゃうと、介護に就こうって人も増えていかないじゃないですか。
中村 報道は虐待の現実とか、違法労働など改善とか、介護保険法の改悪の結果を指摘ですよね。僕がマスコミに違和感を覚えるのは、現場を知らない記者が正義感丸出しで、なんでもかんでも叩く虐待報道くらいかな。


高瀬 今のままマイナスを煽っちゃうと、日本は大変なことになっちゃいますよ。
中村 介護関係者は「介護は日本社会に必要な仕事、誰もが未来の日本のために応援しないといけない」みたいな意識が強い。傲慢っていっていいのかな、その意識が甘えになって今の歪を生んでいる。マスコミのネガティブな報道は、改善しない限り、延々と続きますよ。高瀬さんは、介護をどうしたいの。


高瀬 私は介護の仕事に就きたいって人も増やしたいし、介護の現場もよくしたい。両方、やっていかないと。介護を支えていく人材がいなかったら、この先日本の社会全体としても危機ですよ。高齢者は介護難民になって、特養をいくら増やしても人材不足だったら、立ちいかないですよね。
業界の当事者がいくら言葉でアピールしても、世間の評価は変わらない。今がうまくいっていないならば、人材を入れ替えないと(中村)
中村 賃金低すぎるし、荒れているし、閉塞しているし、今の状況だったら他人に推薦できないですよ。僕は小さな施設の経営者だったけど、自分がもう介護でやっていけないと思ったのは、面接にきた若い子を介護にかかわらせるのが可哀想で入社させきれなかったとき。現役時代に高瀬さんに出会っていれば、また違う気持ちになれたかもしれないけど。


高瀬 それは極端な例ですね。世間のマイナスな風潮は、どう考えても介護をやろうって人を減らしますよ。介護をやりたいって思う風潮になっていないからですよね。楽しくやっている人はたくさんいますし、実際の現場でも、マスコミ報道より楽しくやっています。
中村 よくポジティブな方々は「介護を変える」って発言をするけど、なにからなにに変えるのか伺っていいですか。


高瀬 価値観ですね。今、おっしゃっていたような重労働、低賃金とか。一般的に言われている、介護のネガティブな価値観を変えないといけないです。現実にネガティブな側面がないとは言い切れないけど、その価値観を変えていかないと、介護に就く人はますます減ってしまいます。
中村 僕はいろいろな業界を取材した経験があるのでわかるけど、その業界の当事者がいくら言葉でアピールしても、世間の評価は変わらないですよ。そんなことを言うと、元も子もないけど。今がうまくいっていないならば、人材を入れ替えないとダメなんですよ。


高瀬 働いている人がいきいき働けるような、介護現場が増えていくことが必要だと思います。経営者の人とか、上の立場な人が前向きな気持ちを持ってほしい。確かに介護はいろんな問題があるけど、もっとよくしたいってムードが欲しいです。諦めないでほしい。
中村 介護をよくしたいっていうのは、僕も強く思う。目的は高瀬さんと一緒なんですよ。今の介護業界がよくないのであれば、今いる人がよくないわけ。いきいきと働ける現場っていったら、まず経営者だろうなぁ。“kaigoカフェ”は介護職、経営者で内容を変えてもいいかもしれないですね。


高瀬 私の場合は介護現場から始めているので、まず自分の現場から変えていきましょうってことです。経営者の人も来てくれているから、そういう人たちに対しては、今の自分の事業所をもっとこういう方向にしていこうって大きな流れを、イメージしてもらえたりします。確かにもっと経営者の人に来てもらえると、変わるのは早いですよね。
中村 しかし、介護を変えるっていうのはたやすいことじゃないですよ。後半も引き続き、介護と“kaigoカフェ”についてのお話をお願いします。
