「介護対談」第52回(後編)藤田英明さん「社会経験がない真面目な若者は、ホワイト風にみんな騙されちゃう」

「介護対談」第52回(後編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんと藤田英明さんの対談藤田英明
株式会社日本介護福祉グループの創業者で、宿泊付きデイサービス「茶話本舗」ブランドで介護業界を盛り上げてきた介護業界の第一人者。現場で培った経験をフルに活用し800店舗の事業所を持つまでに急成長。介護業界に本格的なフランチャイズ方式を用いた、補助金のみに頼らず民間資金でサービスを展開。代表的な著書は「図解でわかる介護保険・介護報酬の改正ガイド」(共著・アニモ出版)「社会保障大国日本VER.1.0 PRACTICE」(幻冬舎ルネッサンス)など
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書) は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った「貧困とセックス」(イースト新書)に続き、最新刊「絶望の超高齢社会: 介護業界の生き地獄」(小学館新書)が5月31日に発売!

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

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社会経験がない真面目な若者は、ホワイト風にみんな騙されちゃう(藤田)

やはり個人的に大問題だと思っているのが、介護に入ってしまった若者について。もう見ていられないレベル。介護業界に入ってしまった優秀な若者は、過度な高齢者優遇や若者軽視を推し進めたい権力側の大人に利用されている。一方で、ただただキラキラする末端の若者は、「介護人材確保」政策に洗脳されて感覚がズレてしまっている。なんとか自己実現してほしいと思うが、現実を眺める力がまったくないし、正直、ため息が出る。

中村中村
藤田藤田

まず、介護職に未来がないのは賃金の問題だよね。介護職の賃金は以前に比べるとたしかに少しは良くなった。けど、全産業平均と比べるとまだまだ大幅に低い。低賃金の原因を根本的にいうと、戦後、社会福祉法人制度の変遷とつながっている。女性を新卒採用して、数年間現場で働いて5~6年働いたら寿退社してもらうってモデルだったから。寿退社したら新卒と交代して、そんなことがずっと繰り返されるという。

昭和時代は一般的だった女性の26歳定年制度ね。思い返せばバブルまでの日本経済は順調そのもので、90年代以降に結婚が自由化、さらには市場化されてお見合い結婚がなくなった。未婚、晩婚、離婚が加速して少子化へと向かっていった。2000年に介護保険ができた後、男女共同参画とか働き方改革が叫ばれても、女性を安く使うという根強い意識は残っていると思う。

中村中村
藤田藤田

残念ながら、いかに安く使うかという側面が歴史的な根底にある。

国は、介護職に最低賃金くらいの額で働いて欲しい、という意向があると思う。安くコキ使える下層階級という位置づけで、まったくお金を払うつもりがない。

中村中村
藤田藤田

できるだけ安く使いたいから介護職の賃金を「処遇改善加算」という形にして、あえて加算に入れている。いつまでも本体報酬には入れてこない。加算であればいつでも切れるので、どこかでバッサリ切ると思うよ。

そんな未来のない状況の中で介護業界を見回すと、みんな国から権力側に気に入られるためにホワイトブランディングをしている。そういう人たちが実態を隠し、キラキラ風な世界を見せて若者を引き込んで安くコキ使うって。若者のキャリア形成は20代がすべて。自称ホワイトの介護関係者が自分の自己実現のために、若者の人生潰すようなことをするのはかなりまずいと思うんだよね。

中村中村
藤田藤田

ホワイト風っていうのは、本当によくない。社会経験がない真面目な若者は、ホワイト風にみんな騙されちゃう。本当の介護現場はそんなホワイトになりようもないんだけど、外から見たらホワイトに見えちゃうから。おじいちゃん、おばあちゃんの役に立つ、それが社会貢献とか。最悪の場合、「高齢者の夢を叶えることこそ、君たちの夢だ」みたいなことを言っている。

今は超高齢社会だから介護をなんとかしたいって国の方針があるから良いけど、政権が変わって高齢者優遇や世代格差をなくそう、みたいな動きにが強くなったら彼らはまずいことになると思うよ。みんな軽い気持ちで権力側のお手伝いをして若者を介護に引き込もうとしているけど、当事者が得しない。世の中の流れが変わったら超最悪で、逮捕とかもあり得る。それはAV強要問題が先駆けている。

中村中村
藤田藤田

はは、介護強要問題ね。いくらなんでも逮捕までは(笑)。

工事をすればGDPは上がる。介護やってもGDPは上がらない(藤田)

介護のキラキラ人は、大まかに「貧乏かもしれないけど、やりがいのある仕事に出会えて充実している」みたいなことを言う。やりがいあるって主張するけど、そんなのはどの仕事も同じだよ。向いている仕事で成果を出せば、そりゃあやりがいあるよね。

中村中村
藤田藤田

若者を自社の経営のために採用するのは、それは普通のことだと思う。企業努力の範囲内だから。ただ、集団を作ってそこで洗脳のような手段を使って、「介護業界良いよね!」ってごそっと連れてくるのは、日本経済にとってすごくマイナスなんですよ。例えば、建築とかサービス業は人手不足。工事する人がいない。工事をすれば日本のGDPは上がる。介護やってもGDPは上がらないからね。

介護職を増やしても、状況次第ではいつでも切れる公務員を増やしているのと同じで、何かを生み出すという仕事じゃないのでキャリアにもなりづらい。労働生産性でいえば、どう考えても他産業の方が高いね。

中村中村
藤田藤田

ある先生が、介護職員の間接的経済波及効果っていう研究をしていた。いろんなケースを持ちだして、なんとか介護の経済効果を出そうとしたけど、結局のところ苦しかった。介護をすることによって家族が助かって、家族が経済貢献をする、みたいな。例えば、家族が超一流企業に勤めているビジネスマンで、その人のお母さんを中卒の介護職が担当すれば間接的に大きな経済効果があるみたいな。さすがに強引だよね。

藤田さんがやったお泊りデイとかは、貧乏人とか貧困層向けですよね。家族を預けた息子が1円パチンコ三昧とか、大半はそんな感じでしょう。結局、高齢者介護はババ抜きになっている部分がある。介護カフェとかセミナーに行って自己啓発をしても「賃金安くて頑張るのなら、もっと下げよう」ってなるだけだろうし、どんどん絶望感が漂うよね。

中村中村
藤田藤田

よくわからないカフェとかセミナーとか、余計なこと。無駄な時間じゃないですか。第一、そういうのに参加してる人って毎回同じようなメンバーだし。そんなことするなストライキの方がよっぽど良い。何千倍も良いですよ。フランスの介護施設とか、みんなストライキやっている。

介護職は自分が面倒みている人たちが死んじゃったら困る、みたいな意識が強いからストライキにはならない。そういう感情的なことも上層部の人間は織り込み済みだろうしね。必要最低限のギリギリ死なない程度の配置をして、こんなに体調悪くなりました、みたいな交渉が良さそう。

中村中村
藤田藤田

特養だったら100人に2人くらいの配置。お風呂なし、オムツ交換も1日1回とか。ご飯も1日1食とか。その日は一応2人だけ残して、みんなで一斉ストライキみたいなことを、本当は介護福祉士会がやった方が良い。財務省と厚労省を相手に、介護給付費の値上げと人材派遣業の禁止の要求で良いかな(笑)。

処遇改善加算で賃金は上がっているけど、他産業も上がっている(藤田)

介護職の低賃金は政府も少し気にしているようで、1000億円の予算で勤続10年以上の介護福祉士に月8万円の給与アップという施策案は話題になった。でも、そう言っておいて出さないパターンはあり得る。しかも、今のところは事業者に渡して、分配はそれぞれの裁量でやる感じらしいね。

中村中村
藤田藤田

処遇改善加算は、細かいところに制度的欠陥がある。例えば、社長が現場に1日入っているとすれば、処遇改善加算を全部社長がもらっても良いみたいな。うちはそういう分配だからと言ってるところがたくさんある。処遇改善加算で賃金は上がっている。たしかに上がっているけど、他産業も上がっているという。本来は、加算ってよりも介護職の可処分所得が増えれば良いわけじゃないですか。

最低賃金はどんどん上昇中で、消費者物価も上がっている。でも介護報酬は下がっている。社会状況と連動しないで、処遇改善加算を入れて調整しているのが現状ですね。

中村中村
藤田藤田

処遇改善加算については、局面次第ではすぐに切られますよ。それを考えているのは財務省だと思うけど、すごく頭が良い。処遇改善加算がなくなったら、介護職の収入はガクッと下がる。本体報酬は変えずに、将来的には切りたいものを加算として付けておくだけ。処遇改善加算は現政権の施策だから、首相が代わったらなくなるかもね。そうなると介護職員はいよいよ貧困から抜けられなくなる。

個人的にだいぶ前から、高齢者と介護職の適正化が優先事項の一つと思っていて。介護職を安くコキ使って、さらには、利用者様、ご家族様とか言わせるのはおかしいと。マクロで見れば、どう考えても平等でしょう。もしくはババ抜きとすれば、介護職の方が上であるべき。家族が涙を流して頼み込んで、介護職に預かってもらうみたいな。そっちの方が自然だと思うよ。

中村中村
藤田藤田

歪ではあるよね。しかも、今の要介護の高齢者の人たちって、保険料を納入している期間でいえば短いですから。若者たちがこれから40歳になって払い始めたら、圧倒的に払う期間は長い。それに介護保険も20歳からかな。段階的に下がっていくでしょう。

そんな状態の中で権力側の手伝いする介護関係者は「高齢者の夢を叶えることは、僕たちの夢」とか言い出しているでしょう。世代間格差を極限まで広げようとしている。日本に格差社会は合わない。一部の頭の良い若者は気づいているし、格差容認発言は控えたほうが良いと思う。

中村中村
藤田藤田

それね、ある意味で古典的。僕が現場をやっていた20年近く前でそんな感じだった。20年前の高齢者は明治大正生まれの人で、戦争も経験していて、旦那や子供が死んじゃったり。不遇な人たちがたくさんいた。その人たちに対して共感というか、同情、かわいそうだなって心が働いていたわけ。介護職が頑張ろうと思える動機が一応はあった。今またそれを持ちだされても時代の状況が違うよね。

そのあたりの問題は、「全部介護」をサービス業にしたことが諸悪の根源だよね。お金をたくさん払うなら良いけど、保険内だったら競争はやめた方が良い。ロクなことにならない。

中村中村
藤田藤田

介護事業者の数にまったく規制を入れなかったら、どこまでも膨張する。要介護高齢者の数が増える限り、膨張するから。一つの考えとしては、サービス量を抑えて、全員が介護を受けられるわけじゃないって状態にして、要介護にならないように自分で努力する人を出していかないと。不摂生して、要介護になっちゃいました、じゃあお願いねってことが今でしょう。

決定的な解決策は、在宅介護をする家族への「家族給付」(藤田)

高齢者優遇、世代間格差、若者の苦境、財源不足、人手不足と問題まみれ。この前、竹内理論の詳細を取材で知ったけど、若者や現役世代は苦しいんだから「もう水くらい飲め」と言いたい。飲みたくないとか、本当ふざけるなと誰か説教したほうがいいよね。

中村中村
藤田藤田

個人差あるけど、竹内理論の効果は出るといえば出る。個人差は大きいけど。まあ国が介護保険の中で、どこまで面倒みるかって話ですよね。ぶっちゃけ。最終的には要介護3,4,5だけが介護になるでしょうね。そのラインで落ち着くのではと思う。

限界に来ている現状より、遥かに高い介護度の高齢者を、加算を切られた後は現状より遥かに安い賃金でみるわけね。それは、どう考えても無理じゃなかろうか。最低条件として書類ゼロ、夜勤をIT化してほぼなしにはしてほしい。

中村中村
藤田藤田

決定的な解決策は、在宅介護をする家族への「家族給付」でしょうね。昨今の日本では、働きたいけど働く場がない高齢者がたくさんいる。でも、いざ働くってなったら親の介護を介護職に託して、その人たちが働きに行くってことになっている。だったら、その人たちが自分の親の介護をやって、そこに給付を発生させれば、その方が全然良い。無駄な介護職を増やさなくてもいいし、それに踏み切った瞬間、介護職は充足しましたって宣言ができる。

すごい案だね。施設はたくさん潰れるだろうけど、何もかもが解決する。

中村中村
藤田藤田

家族に対する給付費は、介護度に応じて出せば良い。もし本当にそうすれば、人材紹介会社に介護報酬を持っていかれないし、施設を建てなくて良いし、現状と比べるとかなり安く収まる。家族が在宅での介護をしないならば、給付を放棄して介護保険を使って自己負担にすれば良いんですよ。例えば要介護4の介護を家族がやる場合、家族への給付費を月15万円くらいにすれば、けっこうな割合で15万円に向かうと思いますね。

今回の報酬改正は政治的な動きがあって、たまたま現状維持となった。この数年で地域包括ケアシステムや自立支援介護をなんとか実現して、次の改正で大幅な報酬下落が予想されている。そこで崩壊しそうになって、その藤田さんの家族給付みたいな案が出るかもね。

中村中村
藤田藤田

社会保障費は、診療報酬・介護報酬・薬価でのパイの奪い合い。シンプルにそれだけ。介護は政治的なパワーが弱いので、当然下落するでしょう。現状維持でやっていけないのは間違いないですね。現場からの大きな動きが絶対必要です。

2年3ヵ月続けた介護対談ですが、最後の最後に登場してもらってありがとうございました。あと、毎週読んでくれた方、登場してくれた介護業界のキーマンの方々にお礼を申しておきたいです。ありがとうございました。

中村中村
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