

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
介護福祉士という資格制度の始まりは家族の代行。生まれ方が不幸だった(藤田)
介護対談は最終回です。なんと、最終回は藤田英明さんですか。藤田さんは、800店舗のデイサービスを展開した株式会社日本介護福祉グループの創業者です。介護業界の風雲児で“介護スター”と呼ばれ、民営化した介護業界を牽引する存在だった。


僕は風雲児かも知れないけどスターじゃないし、何か才能があるわけでもない。勘弁してくださいよ(笑)。ただ今日はあらゆる角度から本音をお話ししますよ。
僕と藤田さんには確執があった。2014年~2015年にかけて藤田さんとその周辺のブラックな介護関係者たちを僕は一方的に徹底批判した。ブラック運営もそうだけど、最終的には介護職への洗脳みたいなことが許せなくて、ちょうどクローズアップ現代が居酒屋甲子園を放送したのを見て「きた!」と思ったその日から藤田さんに対しての猛攻撃を始めた。懐かしい(笑)。


へー、そうなんだ。中村さんが怒っていた“ポエム”みたいなことをどうしてやっていたかというと、介護業界はある種、幼稚で稚拙な言葉使いをしないと理解してもらえない人たちの集団だからだよ。ロジックで説明したところで、一般的に理解される業界かというと、マクロ的にはそうではない。だから人を集める、注目されるための言葉がシンプルを超えて、稚拙になってしまう。居酒屋(飲食業界)も同じじゃないですか。だから、あんなことに。
しかし、僕も先日、ブラックの人たちが「実は正しかった」と気づいてしまった。ついこの前まで、ポエム的な言葉を使って、人材を操って、自分の利益やメリットのために誘導して使い潰すみたいなことに憤りを感じていた。介護対談でも一貫して介護職の味方をしてきたつもりだが、介護職の人たちは「現実なんて知りたくない」「貧乏でも貧困でも夢のある綺麗な言葉で操って欲しい」みたいな。


はは。それで良いのかっていう問題はあるけど、これからの日本は税収を上げていかないとあらゆることが破綻する現状の中で、「ロジックを理解できる人たちが介護業界に入ってきて良いのか?」という問題意識も実は考えていて、中村さんが昔から言っていたことも理解できるけど、逆にそれは理想論で現実的ではないよねって思う部分は正直あった。
多くの介護職は、国とか経営者に人生の全部を預けて、その中でもブラックな人たちは“感動”とか“感謝”など、個人的な感情まで操られていたでしょう。異業種から見るとそれは信じられない風景で、まあ可哀想だけど、洗脳された人はこの先ないよね。よく他人にそんなことができるなと驚いたが、当事者自身が自分と自分の子供の人生より、非現実的な夢を見ていたいのだから仕方がない。本当にそれは最近気づいた。


そもそもだけど、専門学校とか福祉大学もロジック立てた介護より、寄り添う介護を教えるでしょう。だから事業者も、知識や技術ではなく、精神論になっちゃう。何度も言うけど、あくまでマクロ的に見てってことね。高齢者や障がい者に寄り添って介護をしているだけでは、まあ専門性とはかけ離れているよね。今のままだと永遠に専門職という扱いにはならないでしょう。
精神論を浴びて、真面目で素直な人は綺麗な心が研ぎ澄まされる。高齢者に寄り添ったところで…って時代に突入しちゃったし、医者とか歯医者とはまったくの別世界だよね。


大元をいっちゃうと、介護福祉士という資格制度の始まりは“家族の代行”。生まれ方が不幸だった。家族が医療を施すことはできない。でも、介護は家族がしていたことを社会化することで介護福祉士とするという考え方だった。家族の代行から始まっているという点が他の専門資格とは決定的に違う。介護事業を展開するには人数が必要。ロジックや理屈のわかる人たちだけで、200万人に及ぶ膨大な人数を介護業界で構成できるかというと、できない。だからポエム的に伝えなきゃ…という流れかな。
採用を外部に握られているので、いつまでも人材会社に利益を吸い取られ続ける(藤田)
この半年、介護業界にすごい動きがある。中小零細の経営者はもういらない、周辺事業者に好き放題やられすぎ、という声が上がり始めた。零細事業者は藤田さんが支援した人たちのことですね。中小零細経営者に周辺事業者が群がって、介護報酬が流出して介護職に回らないという問題がついに限界まで来てしまった。


富の再分配になっていない。本当にそう思う。今回の改正で周辺事業者を追いだそうっていう動きが始動しましたね。ただ現状は採用を外部(周辺事業者)に握られている。本気で介護事業者はこの問題について考えていかないと、いつまでも人材会社に利益を吸い取られ続ける。そして介護職の賃金は上がりつつあるとはいえ、恐らくこの先もずっと貧乏なままだよね。
先日聞いた話だと、介護保険事業所の大法人が連携して、人材を共有しようと。人材会社に頼らないような協力体制の構築に挑戦するとか。


それは良い。もう介護業界は人材会社のカモ。例えば1人介護職が登録して6ヵ月間どこかに紹介する。6ヵ月経ったら辞めてもキャンセル料は発生しない。紹介した人に入職6ヵ月が経つ頃にバンバン転職勧誘のメールをする。次を紹介する。そんなことが、介護人材の定着を阻害しているという側面もある。
最高にまずい。末期的な状態だね。介護職の人は、外部に流出するお金が自分たちの賃金や昇給にダイレクトにつながっていることを知らない。経営者が搾取していると思われがちだが、経営者ごと搾取されてしまっている。


残念なことに人材会社は、介護関連事業はそういうビジネスモデルですっていうIRを出しちゃっている。しかも、その搾取構造を拒絶したら介護職を確保できなくなるから運営できない。東京の有効求人倍率3倍、愛知県は5倍以上。夜勤付きになったら10倍。人材会社は介護職1人あたり安くて紹介料が15万円くらい。普通に40~50万円出せって言ってくるところもある。
それで半年で辞めるんでしょ。もう無理。人材会社はやり過ぎだね。その構造から抜けださない限り、介護職にお金が回ることはないし、いつまでも貧困のまま。恐ろしい。モンスターだね。介護事業所は、「高齢者にもっとより良いサービスを~~」なんて言っている場合じゃないね。常に介護職の立場に立ち、離職を減らして、報酬の外部流出を防がなければ介護職が幸せになる手段がない。


それができるなら当然みんなやるけど、難しい。介護職は長くいるほど給料が上がっていく。箱物は売上は変わらない。むしろ下がる可能性の方が高い。そうすると規模を拡大していくしかない。延々に展開し続けるしかないという。展開するのは人が必要だから、人材会社に頼らざる得ない。どっちにしてもお金が流れていく。無限ループですね。
今のままだと、介護業界は最高にまずい状況になる。黄信号どころか、もう赤信号(藤田)
話を聞けば聞くほどに答えがわからなくなる。藤田さんは2006年に茶話本舗事業を始めて、2008年~2013年頃にかけてもの凄い勢いで拡大した。全国800店舗まできたところで各省庁に目をつけられて、2015年度介護報酬改定で下火になった。藤田さんは代表を降りることになった。


僕が派手にやった頃は政権与党も定まらず、デフレ真っ只中で不景気だったから。人材には困らなかった。もうそこだけ。あと、中小企業が不景気の中で行き詰まっていたのがこの時期。新規事業を探すことに舵を切った事業者が多く集まってきた。拡大できる条件が揃っていたわけです。茶話本舗が順調にいかなくなったのは2015年の報酬改定で「基本報酬9%ダウン」が大きかった。もう1つは消防法の改正でスプリンクラー設置問題ですね。ダブルでやられた。加盟店は中小零細。その多くは予算が足りずにスプリンクラーを設置できなくて撤退を余儀なくされた。ちなみに、裁判は無事に和解しましたよ。
まだやっている人たちもいるみたいだけど、報酬減、スプリンクラー、それに人材不足でもう地獄だろうね。僕も苦労した側なので経営者には心から同情するけど、やっぱり介護報酬が介護職に正当に分配されないのは、本当によくない。事実、限界にきている。


介護事業所は中小零細が大半、それが根本的な原因ですね。すでに中小零細は人材不足に困り果てている。募集を出しても応募すら来ない。それで紹介会社を使う、でも紹介料は高い。で、経営圧迫。そんなことが繰り返されて、資金が底を突く。借入ができたところでその沼からは抜けられないで、撤退みたいな。
悲惨だね。介護職が働いて、本当に大変な思いをして、やっと売り上げた介護報酬を人材会社は当たり前のように1人につき40万円とか。そこまでやると、何もかも破綻するよね。いくら何でもそれはやりすぎ。


あまりにも破綻が多いということで、ここ最近は金融機関も介護事業は信用できないってことに気づきだした。実際に介護事業離れがけっこう激しくなってきている。その最初のキッカケはサ高住を乱立させて銀行が貸しまくったから。土地のオーナーが補助金使ってサ高住を建てて、介護事業所が借り上げてってモデルだったけど、介護報酬下がって介護事業者が撤退、借主がいなくなり土地オーナーの中で姿を消してしまう人が増えまくっているようで。採用ができないから運営ができないし、焦げ付いている案件が多い。銀行も介護事業に簡単には金を出さないようになってきた。
周辺事業者にお金が流れ過ぎて、介護職に回らない。人が集まらなくてサ高住は破綻。介護職は貧困で下層に固定され、銀行は焦げ付き、もうトラブルまみれ。まずは介護職自身が普通の生活を遅れないと何も解決しないのに。


今のままだと、介護業界は本当にまずい状況に陥る。黄信号どころか、もう赤信号。でも介護職は基本的に何も言わないで我慢するでしょ。彼らは何もかも人頼りだから。僕の意見だと、唯一の職能団体である日本介護福祉士会が動くべきだよね。今こそ。
日本介護福祉士会が他職種の職能団体のように動いたほうが絶対に良い(藤田)
日本介護福祉士会が人材の問題を適正化するわけね。それは介護福祉士の人生や家族を左右させる重要なこと。日本介護福祉士会はそういうことに着手するつもりはあるのかな。


ないんじゃないですか。わからないけど。そもそも組織率が4%くらい。組織率を上げれば動きようがあるけど、多くの介護職が今のところ、介護福祉士会に所属するメリットを感じていないという。日本医師会なり、日本看護協会はいろんなメリットを感じるから加入するけど、介護福祉士会に登録したところで。給料上がるんですか、みたいな。
日本介護福祉士会が他職種の職能団体のような力と行動力を持ってくれれば、何ができるのでしょうか?諸悪の根源である人材会社を追い出せるの?


もうね、本当にそれは絶対にやった方がよくて。例えば、厚労省とちゃんと話して「介護職の紹介派遣はもう禁止!」とか。日本介護福祉士会が人材の配置・調整を全部やるとか。だって、介護報酬はまず税金と保険料を国に納めて、国が都道府県と市区町村に下ろす。そこから各介護事業所に下りて、それをスタッフに分配する。そういう構造なのに、介護事業所とスタッフの間に周辺事業者が入ってきて奪いまくるんだから。それで実際に労働している介護職はみんな貧困という。
しかも周辺事業ばかりが上場し、介護事業者はギリギリの経営で上場できない。末端の職員に関しては泥沼のダブルワークとか、挙句の果てには売春までして最低限の生活を送るという。日本介護福祉士会は動いてくれるのか?面倒くさいのかな(笑)。


僕はよく彼らの重い腰を盛り上げようとしていますよ。なんとか頑張ってほしいって。派遣と紹介より、直雇用の方が職員に対する介護報酬の還元率は圧倒的に高い。でもいくら伝えても、日本介護福祉士会の彼らは「はい、そうですね」って(笑)。だいたい「上が…」って言い訳をします。
うーん、老害問題ね。社会福祉法人だって、ちゃんと若い子供に譲っているところが、うまく運営している。どうして上層部の老人はしがみつくの。どうして周囲は辞めろって言わないの、それに身を引かないの。わからない。


まあ、内部で勢力争いみたいなことがあるみたい。なんか派閥があって、それで組織全体が動かないみたいな。
でも、介護の置かれている環境は厳しいことは明白なんだから。派閥が違っても普通に話し合えば、1時間くらいで全会一致しそうなもんだけど。


普通に考えればそうなんですよ。養成機関系の団体も硬直していて、介護職の専門学校とか定員割れしているじゃないですか。でもまだ勢力争いをやっているわけですよ。内輪揉め。理事の中で誰か会長になるかとか、そんなことを延々にやっている。
とりあえず、前半はありがとうございました。もう介護に関しては問題が大きすぎて、一部の個人や法人が頑張っても何も解決しないことがよくわかりました。後半も引き続きいきましょう。
