

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
ロボットやテクノロジーをフル活用して1の人材で10の成果を出すのもいい。引き出しが多いほど可能性と選択肢は広がる(徳山)
中村 前編では、介護ロボットはあくまで介護職の補助的なツールであり、介護そのものが機械化するわけではないことを伺いました。介護業界は2025年を指標に様々な動きをして、最注目の一つがテクノロジーでした。今のところ、少なくとも2025年の介護現場の風景は現在と大きく違うことはないだろうという感想です。


徳山 特養老人ホームは、現在は待機の方々がいらっしゃいますが、人口動態的に将来は特養老人ホームも顧客獲得競争になります。介護ロボット研究は日本のため、介護業界全体のためにやっている部分は大きいですが、法人としても先行投資をしていけば、特養老人ホームが競争の時代になっても勝っていけるという思惑もあります。
中村 超高齢化社会のピークは現在から30年間ほど。2100年には日本の人口半減というデータがあって、将来的には当然特養老人ホーム余りという現象も起きるでしょうね。


徳山 それと、危惧しているのは介護保険制度の動向です。現在は介護保険制度で8割~9割の介護報酬が出ています。国家財政も危ないと言われている状況で、介護保険制度からの給付がだんだんと減り、最終的には制度が破綻して給付がゼロになることもありえます。そういう未来がくるかもしれないですし。
中村 介護保険は全現役世代から保険料徴収の検討や、利用者の自費負担をどんどん増やすという負担増の流れがあります。高齢者の単身世帯の増加や貧困が指摘されている中で、3割負担までさせたらとてもセーフティネットとは言い難いですね。


徳山 お客様は1割の金額だから利用しているのであって、3倍~10倍の価格になって施設を使うかといえば、まったく別の問題になってきます。介護を提供することが法人の使命でありますので、10倍の価格でも成り立つサービスを提供しなければならないし、その事態を想定はして動かなければなりません。
中村 そう考えるのですね。市場が小さくなって競争が激しくなれば、クオリティーもありますが、設備投資、人件費など支出を少なく自社生産できるところが残ります。


徳山 ロボットやテクノロジーをフル活用して1の人材で10の成果を出すのもいいですし、お客様は2割負担でいいけれども、1割はロボットを売って稼ぎます、でもいい。引き出しが多いほど可能性と選択肢は広がります。
悪い意味ではなく、機械による介護のベーシックインカムは非常に有効(中村)
中村 僕はこの数年、介護施設運営を経験して、同時進行で貧困取材をしました。一般の方々が思っている以上に、日本は悪い方向に向かっています。介護保険制度の継続も微妙としか思えません。現実的かどうかは置いておき、東京ドームのような大きな施設に家族が続々と親を捨て、機械による超合理的な介護のようなものを想像します。


徳山 それは一つの未来としてあると思います。前編で「ロボットは介護ができるのでしょうか?」とおっしゃられていました。ベーシックインカムというと言いすぎかもしれませんが、基本的な生活最低レベルはテクノロジーで提供する。そして、対人サービスに当たる部分は、お金をとってやっていく。そういう未来はくるのかもしれません。
中村 機械による介護のベーシックインカムか。悪い意味ではなく、機械による介護のベーシックインカムは非常に有効でしょう。介護業界は隠しているけど、親が要介護になった親子や家庭の破綻、絶望、憎悪みたいなものは多すぎます。まず、そのような不幸が減るでしょうね。それに、介護離職の問題も解決するかもしれません。


徳山 イメージとしては、美容院に行くじゃないですか。完全機械式のシャンプー台があります。しかし、追加料金で500円を払うと美容師さんがマッサージしながら、髪の毛を洗ってくれる。どちらを選びますか、お客様の二択ですと。洗うだけでいいならば機械だけでいい、リフレッシュしたいから美容師さんに500円を払おうかとなる。介護もそういう感じになるかもしれないと、ぼんやりしたイメージはありますね。
中村 当然、いろいろな意見があるでしょうが、僕個人が思うのは全介助の寝たきり高齢者は動きが限られるし、大規模、完全機械化でいいのではないかと。必ず「あなたは自分の老後、機械で介護されたいの?」みたいなことを言う人がいるけど、それを望む高齢者も多いと思います。


徳山 生活に必要なロボットのラインナップはそろい始めていますね。お風呂でしたらドーム型のところに入り、機械式でカラダを洗うものなどありますし、食事介助はもっと発展が必要ですが、ロボットが口元にスプーンを持ってくるものはあります。移動にしても天井からベルトで持ち上げる機器もありますし。サービスレベルは保証できないですが、機械だけで最低限の生活をすることは可能になるでしょう。
中村 軽度削減、報酬減などの動きをみていると、国の財政は圧迫しているといえます。介護保険制度も順調ではありません。やっぱり、テクノロジーで最低限の生活が提供できれば、国が機械による介護のベーシックインカムを選択する可能性はありますね。


徳山 そうかもしれません。その完全機械式の施設に入ると食事、排泄、入浴を提供して最低限の生活はできますと。社会保障の一つとして、最低限の生活を提供する完全機械化の介護施設を作っていこう、という将来はありえると思います。
介護現場でハンドリングし切れないマネジメント部分を人工知能が担うことも企画中(徳山)
中村 人工知能は“コンピューター上で、人間と同様の知能を実現させようという”ということです。徳山さんは介護ロボットと、並行して人工知能の研究をされています。


徳山 元々介護ロボット研究室としてやっていましたが、7月に「介護ロボット・人工知能研究室」と名前を変えました。まだ立ち上がったばかりなので、なにをするかは企画中です。で、人工知能とはなにかといいますと、今のトレンドとしては機械学習になります。様々なデータをコンピューターで学習し、環境に応じた最適な答えを提案してもらうわけです。
中村 介護記録の完全電子化は、いくらなんでも進む段階にあると思われます。介護施設は高齢者の日々の生活、食事量、排泄を記録しています。現段階で、すべての介護施設に高齢者のデータはありますよね。


徳山 そのデータを活用するわけです。当法人ではその段階にありませんが、一例として給食の献立考案のテクノロジー化を挙げましょうか。現状では一か月の献立は栄養士や調理師が調達コスト、お客様の好みや反響などをふまえて考えるわけです。人が考えると、どこの施設でも、だいたい似たり寄ったりになります。
中村 なるほど。蓄積されたデータを駆使して、提供する朝昼晩の食事メニューをコンピューターに考えてもらうわけですね。


徳山 実際にお客様が日々、食事を何割召し上がったというのは介護記録にあります。この食事のときは10割、このときは半分という情報を集め、より最適な答えを出します。もっと拡大すると、調達コストですね。今はニンジンの価格が上がっているとか、そういう情報をすべて勘定しながら、経営上で出せるコストとお客様の好みを合わせて、この献立でいきましょうと。それが一瞬で出てきます。人工知能はそういう分野ですね。
中村 今人間がやっていることの、どこを機械に任せられるかというところでは、介護ロボットより現実的ですね。


徳山 調理の例は現場寄りの話ですが、介護施設の運営でいくとマネジメントですね。介護現場ではトラブルが起こることが往々にあって、いろんな人から施設長に話がいきます。施設長に集中しすぎることでハンドリングが仕切れないこともあります。それを代わりに人工知能がハンドリングするとか。
中村 人間がマネジメントすると、必ずその人物の性格が出ます。介護施設で多いのは、女性に甘くて、男性に厳しい男性上司とか。感情に左右される女性管理職とか。どうしても好き嫌いや主観が入ってきます。好き嫌いが出てくると問題が起こって、人間関係が荒れてきます。無駄な離職も増えるでしょう。

介護ロボットというと介護職の代替みたいなイメージがあったけれど、職場改善や環境改善でもプラスに働く(中村)

徳山 うちの法人は施設数も多いので、他社と同じく、適材適所の見抜きは各施設長依存と言いますか。各施設の横には情報はいきにくいですね。施設ごとでもいいし、階ごとでも人事的なことをテクノロジーに任せることは十分に可能でしょう。この階でこのお客様たちとこの職員だとパフォーマンスを発揮するけど、今はこっちの階でやっているので、どうも調子がよくない。様々な打ち手がありますが、適性が発揮できる階が人工知能で明快にわかるのならば異動するという選択肢も生まれてくるんじゃないか、みたいな。
中村 人材配置や適正を機械に考えてもらうわけですね。手作業だとかなり大変なシフト表にはじまって、人材配置やマネジメントは主観が入りがちです。機械に任せたほうがうまくいくかもしれませんね。


徳山 採用にも使えるでしょう。この人はこういう特性です。リーダーの特性がある、勤勉である、みたいな人材の情報を入れて、採用非採用や最適な配置を提案してもらうんです。採用面接するとき、人工知能が横にいるのか一緒にやるのか、機械に任せるのかわからないですけど、この求職者はこういう人ですよって入れてあげると、どこの施設の誰の部署で働くのがいいってことが出てくる。
中村 それぞれの人間の主観や思惑がなくなれば、働く職員の満足度は上がるケースが増えるでしょうね。職場改善、環境改善でも人工知能はプラスに働くわけですね。介護ロボットというと、ずっと介護職の代替みたいなイメージがありました。しかし、どうも違いますね。お話を聞いていると介護職より、まず管理者あたりの仕事が変わってくるような気がします。


徳山 現実的にはそうでしょうね。仮に施設長業務を人工知能でいければ、常勤1人分を介護現場にまわすことができます。人手不足の時代が続く中で人工知能を取り入れる事業所のほうが有利になります。今はそのような動きはありませんが、人材対策として厚生労働省がマネジメントを機械に任せることを推奨するかもしれません。
中村 貴重なお話ありがとうございました。やはり仕事は成果が同じならば、楽で合理的なほうがいいわけです。介護ロボット、人工知能の動向には介護関係者全員が注目したいいですね。
