

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
現状の介護ロボットは、すぐに現場で使えるかと言えばそうではない(徳山)
中村 徳山さんは特養、老健などを運営する社会福祉法人善光会、介護ロボット・人工知能研究室の室長です。介護施設がロボットの研究を行うのは日本初の取り組みで注目されています。ロボット研究する社会福祉法人は超先進的ですね。


徳山 我々は機器製造メーカーではなく、あくまで高齢者や障がい者に介護を提供する法人です。どうして介護ロボット研究室があるかといいますと、介護ロボット機器を介護現場で円滑に利活用し、効果をだすために活動しています。自社工場をもっているわけではないのでハードウェアを製造することはしないですが、市販・開発中の介護ロボットの現場実証と導入、現場ニーズに基づく機器の企画やソフトウェア開発、企業や行政などとの共同開発、その三本柱でやっております。
中村 2012年あたりから企業や大学などで、介護ロボット開発中みたいな話を聞くようになりました。介護ロボットという言葉はもちろん知っているのですが、いったい短期的、中長期的に“介護はロボットによって、介護現場がどうなるのか”は、僕も含めてほとんどの方々はわかっていないように思います。


徳山 2012年あたりは介護ロボットが世の中で、ちょっと言われ始めた時期ですね。今は、いろいろな機器メーカーが介護ロボットの開発に着手しています。すでに開発されているものもたくさんあるのですが、それが介護現場ですぐに使えるのかといえば、そうではありません。洗濯機や冷蔵庫のように、誰でもボタンを押せば使えますという状態からはほど遠いわけです。
中村 そうでしょうね、機器メーカーは介護現場のことはわからないですからね。特養、老健、デイサービスがある社会福祉法人なら、実際の現場で試用や実験みたいなことができますね。


徳山 企業が作った製品と、介護現場との懸け橋という部分は大きいです。この機器はこういう特性を持って、こういう使い方をするって部分と、あとは現場で困りごとがあって「こういう機器が必要ですよ」みたいなマッチングです。今まで介護現場と企業の仲介者がいなかったものですから、まずそういう部分をうちがやりましょうってことで介護ロボット研究室が発足しました。
中村 日本には優れた機器メーカーがたくさんあります。パナソニックなどは介護事業をやっていますが、多くの企業は技術と工場はあっても、介護のことはわからない。善光会には徳山さんという専門家と介護ロボットを開発する意欲、それに日々の介護現場がある。企業からすれば、共同開発するには最も適したパート―ナーになりますね。


徳山 製造業の産業ロボットを作るメーカーは多いのですが、いざ高齢者や介護職に向けたロボットになると現場感がわからないと開発できません。適応者が高齢者ということもロボットでは初めてですので、企業の技術者やエンジニアの方々で実験ができないわけです。実際に40歳には使えても、80歳には使えないみたいなケースはたくさんあります。障壁を超えるため、実証を共同でやりましょうということです。
あくまでも介護ロボットは介護職の業務を補助する道具ということ(中村)
中村 まず大前提の大前提で、介護ってロボットでできるのでしょうか?いったい、将来的に介護現場がどうなっていくのか、僕のような一般人には見えないです。


徳山 できるか、できないかでいえば、できます。介護ロボットと一言でいいましても、定義は曖昧です。介護する側、される側、そして高齢者を支援する機器であったり、介護士の負荷を軽減する機器であったり。それらを総じて介護ロボットと言っています。福祉用具みたいなものもあります。
中村 2013年に厚生労働省と経済産業省が「ロボット介護機器開発の5年計画」を出しています。移乗介助、移動支援、排泄支援、認知症高齢者の見守りを重点分野に挙げています。


徳山 その国の方針が出ていまして、基本的には我々も企業もその方針に沿った開発になります。具体的には移乗介助での介護職の腰痛を防ぐためのパワースーツだったり、センサーでの認知症高齢者の見守りや、電動のポータブルトイレなどになりますね。
中村 先日、ホリエモンが「介護はロボットに変わって仕事がなくなる」といった発言をして、介護関係者の間で炎上していました。分野が挙げられているということは、例えば「介護職A君、Bさん、Cさん、ロボットDで、今日は頑張りましょう」ってことにはならないってことですね。


徳山 ヒューマン型ですね。ドラえもんみたいなロボット介護職がやって来て、みたいなことですよね。それは相当先のことです。ただ、そのような近未来像を想像するのは非常に楽しいですね。想像はしますけど、それが何年後にきますかと言われれば、50年後かもしれないし、100年後かもしれない。おっしゃっていることは、そういう領域かと思います。
中村 ロボットが人間の代わりになって、人手不足が解消するみたいなことはないのか。あくまでも介護ロボットは介護職の業務を補助する道具であるってことですね。


徳山 各介護の工程ごとに機械が違ってきます。その組み合わせで一部の時間帯は人を減らせる、そういう考え方です。顕著なのは、夜間帯の見守りでしょうか。夜間帯の見守りはセンサーに任せて、転倒しそうになったらすぐにアラームが鳴る。特養の夜間帯は1人の介護職で、20人程度の高齢者をみるわけです。センサーを設置することによって、40名に1人になれば、人員配置の削減率が50%になります。夜間帯の人員配置を減らすのは、そろそろ検討段階にくると思います。
あくまでも介護は人間がやることで、作業の一つ一つが機械によってだんだんと変わっていく(中村)
中村 介護ロボットがだんだんとイメージできてきました。自転車が電動自転車になる、現段階はそのような感じですね。


徳山 あくまでも介護職が主にいて、ロボットによって介護職の負荷や時間を軽減するわけです。例えば移乗介護、高齢者の状態によっては2人で持ち上げて、移乗しています。そこで機械を使って2人ではなく1人で安全にできれば、その1人分の作業と呼びに行く時間なども削減されるわけじゃないですか。
中村 機械によって細かい作業や負担の軽減を重ねていく。積み重ねた結果として人手不足対策で人員配置の削減もいいし、別のことに時間も使える。介護職の仕事は、将来的に大きく変わるわけではないですね。あくまでも介護は人間がやることで、作業の一つ一つが機械によってだんだんと変わっていくわけですね。で、排泄のロボットとはどのようなものでしょう?


徳山 一つは自動排泄処理装置です。夜間に寝られているとき、パンツのように掃除機をはきます。排泄物がでてくると自動で吸いとるわけです。そもそも特養とか老健は、自分でできることはするという考え方じゃないですか。現在まではオムツ交換のオペレートが必要ですが、排泄処理装置をつけておけば、その作業が減るってことですね。
中村 排泄処理装置をつけて、高齢者は動けるのでしょうか。


徳山 カラダを固定するわけではないので、寝返り程度はできます。あくまでもホースがでているだけなので、カラダの自由はありますね。もう一つは電動式のポータブルトイレです。従来のポータブルトイレは介護職が排泄物を処理していましたが、電動式になるとホースで吸ってくれます。それが現段階の排泄関係になりますね。
中村 あとロボットにできそうなのはレクレーションか。20人くらいを集めて、なにかしてもらえば、大幅に人員と時間削減できますね。これは介護現場の一日が大きく変わりますよ。


徳山 おっしゃる通りで、今流行りの分野ですね。ソフトバンクのペッパーがでて、すでにイオンモールとかソフトバンクショップにいけば、「いらっしゃいませ」とか話していますよ。ペッパーのようなロボットを介護に生かせないかと開発が進んでいます。
中村 レクリエーションをロボットがやってくれて、10時くらいから昼食前まで20人を見てくれたら超助かりますね。人材を入浴にまわすことができて、入浴時の事故も減り、午後の時間帯の有効活用も考えられそうです。


徳山 その分野は開発競争といいますか、現在進行形で盛んにおこなわれています。ペッパーのような人型ロボットを作る企業もありますし、オモチャメーカーのエンタメロボットとか。あとは映像コンテンツ会社もやっていますね。
中村 企業はゼロからではなく、今まで作ってきたものを介護に応用するってことですね。突然立つなど、見守りが必要な認知症高齢者の対策さえ乗り切れれば、すぐに実現しそうですね。


徳山 しかし、エンタメや医療と比較すると、介護はまだまだ市場のパイが小さいです。メーカーも新しいプロダクト開発に、投資がされにくいかなって状況ではあります。なので、他分野で開発したものを介護に応用しようみたいな考え方が主流ですね。
介護施設を運営する我々が間に入って、介護ロボットの開発を加速させるために一肌脱ごうじゃないかということになった(徳山)
中村 しかし、社会福祉法人に徳山さんみたいな方がいるのは、社会福祉法人が介護ロボットを商売にしようってことでしょうか。


徳山 元々は介護施設のシステムインフラ作りのために呼ばれました。記録をデジタル化しましょうとか、システムを作りましょうとか。介護ロボットをやるために入ったわけではないのですね。介護を提供することが法人の使命ですので、大前提としてそれをやって、介護や日本の未来のために介護ロボットの開発研究を進めていると言いますか。
中村 そうなると、他社と同じように介護保険事業の介護報酬の売上で法人は運営されているわけですね。そこで未来へ投資するのは、なかなか踏み切れない決断ですね。


徳山 社会福祉法人は、利益の最大化が法人としてのミッションになりません。2つの考え方がありまして、将来的に高齢者の数が増えて、このままだと介護職不足と世の中で言われています。日本の超高齢化社会、また介護業界の問題点を介護施設という中から変えていきたいんです。
中村 介護業界全体のため、日本の高齢化社会のために投資している部分があるわけですか。


徳山 もちろんです。今、これを使うとなにか削減ができます、というものではなく、技術を育てていくといいますか。介護ロボットを使えるようになれば、きっと将来のためになるよね、世の中のためになるよねということです。各メーカーさんがいろいろ機械は作るけど、今の段階では介護現場にマッチするものは、まだまだ少ない。
中村 介護現場にマッチしないのはメーカーの責任、もっと勉強しろと突っぱねていたら開発は進みません。そもそも企業には介護の専門性はないのだから、無駄も多くなるだろうし。


徳山 だからこそ、介護施設を運営する我々が間に入って、超高齢化社会を迎える日本のため、そして世界のために、介護ロボットの開発をより加速させよう、一肌脱ごうじゃないかということです。
中村 なるほど、わかりました。投資と聞くと、どうしても利益の最大化を気にしてしまうので。後編も引き続き、「介護ロボットによって、介護現場はどうなっていくのか」をお聞かせください。
