今回の訪問先は、愛媛県西条市のデイホーム・きて民家(運営:株式会社悠遊社)。こちらで働く網野健一さんは、家電販売や住宅リフォームの施工を担っていたそう。地域の頼れる電器屋さんとして、シニア世代の顧客から絶大な信頼を寄せられていました。その経験を活かすべく、介護職へキャリアチェンジしたのは2021年。現在はデイサービス管理者として、在宅高齢者の心の支えとなっています。

首都圏の大学を卒業後、地元へUターン。電化製品全般の販売・取付工事から住宅リフォームまで請け負う会社へ就職した。2021年に介護士として悠遊社へ入社。サ高住勤務を経て、デイサービス管理者に。休日には仲間との草野球を楽しむ33歳。
2012年〜2021年 | 電気製品販売、住宅リフォームなどを扱う会社で営業と施工を担当 |
2021年6月 | 株式会社悠遊社へ入社 |
2021年9月 | 「デイホーム・きて民家」管理者へ着任 |
網野健一さんのLIFE STORY
地域密着型ビジネスで学んだ「人との絆」の育て方
これまでのご経歴を教えてください。
関東の大学を卒業した後は、地元・香川県へUターン就職しました。新卒で入社したのは、電化製品の販売・取付工事などを行う、いわゆる「町の電器屋さん」です
地域密着がモットーで「ご用命は電池1個から」というのが会社のスタンス。電球が切れたとお電話があったら、商品を届けるだけでなく交換までお手伝いするなど、お客さまに寄り添うサービスを行っていました。
Before | After | |
---|---|---|
雇用形態 | 正社員 | 正社員 |
業種 | サービス | デイサービス |
職種 | 営業 | 管理者 |
勤務時間 | 9:00~18:00 | 8:30~17:30 |
休日 | 日祝 | 月9日のシフト制 |
仕事内容 | 販売・施工 | 管理業務 |
特に高齢者世帯からのニーズが高そうなお仕事ですね。
そうですね。年齢や体調面で普段の生活に不自由を感じていらっしゃる方や、ネットショッピングに不慣れなシニア世代が顧客の中心でした。ちょっとしたお手伝いにも「ありがとう、助かるわ」と感謝の言葉をいただけるのが嬉しかったです。
業務としては販売を担われていたのですか?
営業・販売職としての採用でしたが、徐々に工事そのものも任されるようになりました。僕自身、明確にゴールが決まっている工事という作業へ適性があったようです。施工に関連する資格もたくさん取得したんですよ。
それに、販売と施工の両方をこなせるというのが、僕ならではの強みになりました。例えば大型量販店の場合、販売とアフターサービスは別の人間が担当します。店頭にいた販売員の感じが良かったから購入したのに、取付工事にやってきた業者は無愛想でガッカリ…なんて話はあるあるですよね。
その点、僕に任せていただければ、最後まで責任を持って対応することができます。商品の調子が悪くなったらすぐに修理にも伺えますし、特に高齢のお客さまにとって大きな安心感を提供できていたと思います。

網野さんを指名してお買い物される方も大勢いたのでは?
ええ、ありがたいことにたくさんお声がけいただきました。
また、勤務先は家電だけでなく、住宅設備に関するあらゆる案件を取り扱っていました。地元の工務店と連携し、浴室やトイレのリフォーム工事なども請け負っていたんです。
リフォーム代金は高額ですから、業者選びは皆さん慎重になります。そんな中、最初は小さな電化製品を買うだけだったお客さまが、普段のお付き合いの中で僕を信頼してくださって、「網野くんにリフォームを任せたいんだけど」なんて相談されることも多くありました。
顧客から信用してもらえるというのは嬉しいですね。
そもそも、前の会社に就職を決めたのは、お客さまと血の通ったお付き合いができそうだと感じたのが理由の1つ。入社当初に思い描いた理想の仕事を実現でき、大きなやりがいを感じていました。

お客さまの生活支援も?!ごく自然に決めた介護職への転身
充実した毎日だったようですが、転職を決めた理由は?
勤続年数を重ねるごとに大きくなる責務や業務量と待遇が比例せず、モチベーションの維持が難しくなってしまって。また、繁忙期はろくに休みも取れないほど忙しく、体力的に厳しかったのも原因です。
一人親方として独立しないかと周囲からは勧めてもらいましたが、将来を考えると身体が資本の職業に就くことへ踏ん切りがつきませんでした。収入が不安定になるのもネックでした。
再スタートの場所に、介護の世界を選んだのはなぜですか?
やはり、前職で高齢者と深く関わってきたことが一番の理由です。接遇やコミュニケーションの面でこれまでの経験を活かせそうだと思いました。
それに、バリアフリーリフォームを通して在宅支援へアプローチする機会もたくさんありました。何度も施工を手がけるうちに、住居面だけでなく高齢者の暮らし全体を支えることへ興味を抱くようになったんです。

網野さんがお客さまと真摯に向き合ってきたことが伺えます。
実は、忘れられない思い出がひとつあって。姉妹で二人暮らしをされていた、80代のお客さまの話なんですが…。
ある時、お姉さんが病気で入院することになったんです。妹さんは目が不自由だったため、独居での生活継続は不可能。けれど、お二人とも福祉につながっておらず、近くに頼れる身内もいない。かといって、妹さん一人だけでは、ケアを受けられる施設を探すことすらままならない状況でした。
そこで、普段の受注を通してお二人の事情を知っていた僕が、役所をはじめ福祉機関と連携することに。介護保険制度なども調べながら、いろいろとお手伝いさせてもらい、無事に施設入所へつなげることができました。
ソーシャルワーカーに匹敵するご対応です!仕事という枠を超えた、誠実さと優しさに頭が下がります。
とにかく僕がやらなきゃ事態が好転しないという切羽詰まった状況で(苦笑)。解決できて本当に良かったという思いでいっぱいです。
また、一時退院されたお姉さんからは、こちらが恐縮するくらい感謝の言葉をいただきました。それを聞いて、僕自身もすごく幸せな気持ちになったのを覚えてます。
この時の達成感や充足感といった体験が、介護の道に進むことを決意する最大の後押しになったのは間違いありません。

成長に必要なのは、ミスも失敗も吸収する素直な気持ち
悠遊社へ入社を決めた理由は?
弊社は四国エリアで事業展開しているため、地元で働きたい僕にとって非常に好都合でした。また、入居施設から在宅支援まで幅広く事業を行っている点も、社内でキャリアアップが図れそうだと感じられました。
2021年6月の入社後は、最初はサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)に勤務。管理者としてこちらの「きて民家」へ配属されて2年目です。
現在の働き方を教えてください。
弊施設の定休日は日曜日。その他に、シフト制で週1日のお休みがあります。勤務時間は8:30〜17:30で、残業はあっても30分〜1時間程度です。
転職前は忙しすぎて残業や休日出勤ばかり。仕事場と自宅を往復するだけの毎日でした。今は体が楽になったのはもちろん、新しいことを勉強したり、やってみたいと思うことにチャレンジできるようになって、視野が広がったと感じます。
今、網野さんが取り組んでいるチャレンジはどんなことですか?
介護関連の勉強です。介護福祉士の受験条件をクリアするまでの間は、認知症ケアに関する資格などを積極的に取得していこうと頑張っています。
介護業界では資格取得がキャリアアップに直結するので、勉強しがいがあります。会社が職員の資格取得について全面的にバックアップしてくれるため、勉強できる環境が整っているのもありがたいですね。
現在の職場である「きて民家」はどんな場所ですか?
「きて民家」は地域密着型デイサービスです。在宅生活を送る高齢者が日中を過ごすための場所で、食事や入浴以外にも、レクリエーションやリハビリなどの介護サービスを提供しています。
現在の利用者さまは18名。自宅の延長線上にあるような、家庭的な雰囲気が自慢です。
管理者の業務内容にはどんなことがありますか?
スタッフ管理など施設運営に関する業務のほか、利用者さまの送迎やケア現場にも入ります。また、広報新聞の発行やSNSでの情報発信にも力を入れています。

管理者へ着任した当初のお話を聞かせてください
管理者になったのは、入社からまだ3ヶ月しか経っていない頃です。前職で高齢者の方と接していたとはいえ、介護に関する経験値はまだまだ素人。右往左往するばかりでした。
それに加えて、前任の管理者というのが、17年前の施設設立当初から勤務していたベテラン職員だったんです。利用者さまやご家族、スタッフからの信頼も厚く、果たして僕に大先輩の代わりが務まるのだろうかという重圧も感じていました。
前任者のカラーが強く残る職場への異動は、苦労も多そうですね。
それが、皆さんとてもあたたかく迎えてくださって。僕と前管理者は親子ほども歳の差があり、頼りなく感じられても仕方がないと思うんですが、「若い管理者さんが来てくれて嬉しいよ」と明るく声をかけていただきました。
とはいえ、利用者さまにご迷惑をかけたことは多々あります。施設からの送迎時、ご自宅の場所が分からず迷子になったりね(苦笑)。
自分の不甲斐なさから自己嫌悪に陥ることもありますが、失敗を取り繕ったり萎縮したりすることなく、謙虚な姿勢を決して忘れないようにこれまでやってきました。周囲の皆さんには日々勉強させてもらっています。

前職での経験が役に立っていると思うことは?
管理者業務の難しい点の一つに、数字の管理があります。会社から求められる目標数値があるため、各業務の進捗状況や達成率は常に気にしなければいけません。
チームは今、ゴール達成に向けたプロセスのどの辺りにいるのか。足りない部分を補うためには何が必要なのか。工事の施工管理をしていたおかげで、日々の進捗を客観的に見極める力・状況に合わせた柔軟な対応力は、僕の得意分野といえます。前職で得たスキルを活かしながらマネジメントを行っています。
サ高住での勤務も経験されたとのことですが、デイサービスと比べて働き方の意識に違いはありますか?
利用者さまとの関わりは、入居施設は24時間。それに対してデイは日中のみです。デイの方が楽だろうと思われるかもしれませんが、接する時間が短いからこそ、濃密な時間を提供しなければいけないというプレッシャーがあります。
入居施設はルーティン業務も多いですからね。創意工夫・試行錯誤という点では、今の方が段違いに大変だなと感じられます。

この事業所を、心地よい地域の居場所とするために
「きて民家」をどんな施設に育てていきたいですか?
地域密着型デイサービスである当事業所は、地域住民との交流を運営方針の軸としています。けれど、今年5月に移転してきたばかりということもあり、近隣との関係構築はまだ十分とはいえません。積極的な情報発信や交流活動を通して事業所をこの町に根付かせ、利用者さまが地域の一員である実感を持てるようにしていきたいです。
また、悠遊社のほかの事業所・施設との合同イベントも企画しています。コロナ禍のため内容は限られてしまいますが、あの手この手で利用者さまに喜んでいただける仕掛けを考えていきます!
一貫した利用者さまファーストの目線を感じます。
利用者さまにとって、「きて民家」に行く日は特別で楽しい1日であってほしいというのが僕の一番の願いです。
デイを利用される方は、自宅から通ってくる人ばかりではありません。サ高住のような入居施設からいらっしゃるケースも多く見られます。
その場合、施設から施設への移動になるわけで、デイ事業所も似たような雰囲気だと気分転換すら図れませんよね。そこで、住居に関する知識を持つ僕が最もこだわったのが天井の壁紙。星柄やチェック柄といった遊び心のある壁紙を取り入れることで、ちょっとしたエンタメ感を感じていただければと考えました。利用者さまからも好評なんですよ。

最後に、介護業界への転職を目指す方へメッセージを!
堅苦しく考えず、気楽にチャレンジしてみてください。「介護」という言葉に身構えてしまう人も多いと思うのですが、お手伝いするのは食事、入浴、排泄など、どれも当たり前の生活の一部です。特別変わったことをするわけではないため、外から見ているよりもずっととっつきやすい世界のはず。
介護において僕がモットーにしているのは「やさしさを技術に」という言葉です。これは前管理者から受け継いだ理念なんですが、相手に対する思いやりをケア技術として提供することで、その方の生活を支え続けたい。とても尊く、意義ある仕事だと思います。

撮影:岡田 悦紀
はこちら 株式会社悠遊社