今回のゲストは、介護福祉士として働く村上友梨さん。実は村上さん、グラビアアイドルと介護職の「二足のわらじ」で活躍していたキャリアをお持ちの方。アイドル活動を卒業した現在も、変わらず介護職に就きながら、SNSを中心にケア業界で働く姿を発信しています。「介護職の楽しさを伝えたい」と話す彼女から、介護の世界に抱く熱い想いを伺いました。

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Profile 介護福祉士・タレント 村上 友梨さん

中学3年生の頃、地元・広島でスカウトを受け、グラビアアイドルとしてデビュー。数々の写真集やDVDを発表する他、テレビ・舞台などマルチに活躍する。2018年にグラビア卒業、2021年には芸能事務所を退社。2015年より続けている介護職に携わりながら、フリーのタレントとして芸能活動も継続中。

経歴
2006年〜 タレントとして芸能活動(2022年よりフリーランス)
2015〜2022年 グループホームに勤務
2023年 サービス付き高齢者住宅兼有料老人ホームに転職
長所 人のいいところを見つけられる
短所 せっかち
趣味 友達と話すこと
特技 相手に心を開くこと

人気グラビアアイドルが介護の世界へ!

今回の「運命のカイゴ転職」は、タレントとしても活躍する介護福祉士・村上友梨さんにお越しいただきました。

こんにちは、村上友梨です。サービス付き高齢者向け住宅兼有料老人ホームで就業しながら、フリーのタレントとして、さまざまな媒体で介護情報を発信しています。

取材写真

村上さんが介護のお仕事を始めたのはいつですか?

2015年です。2006年に15歳でグラビアデビューし、水着を卒業したのが2018年なので、まだ現役でグラドルをやっていた頃でした。

当時、グラビアをメインにやりながらテレビや舞台にも出させてもらっていましたが、芸能活動一本だと生活がなかなか厳しくて。飲食店やコンビニなど何かしらのバイトと掛け持ちしながらタレント業を両立しており、新たに始めたバイト先がグループホームだったんです。

アルバイトに介護業界を選んだのは何か理由が?

介護施設に入居していた祖母が、転倒をきっかけに寝たきりになったことが一番大きな理由です。

入浴介助中の事故だったんですが、子ども心に「介護のプロがそばにいるのに、どうしてこんなことが起きたんだろう?」と疑問を抱きました。けれど母は「家族は預けている側だから、強く言える立場じゃないのよ」と煮え切らない様子で、その姿にさらにモヤモヤが…。

だって、お金を払って入居しているはずなのに、本人や家族が弱い立場になってしまうのっておかしいじゃないですか。その違和感への答えを見つけたいという気持ちから、介護の世界に飛び込んだのが始まりです。

なるほど。「アイドル」と「介護」というのは異色の組み合わせのように感じましたが、周囲はどういった反応だったんでしょう?

当時の所属事務所はすごく後押ししてくれましたね。その頃、私は20代半ばで、グラビアアイドルとしての限界を感じていた時期でした。若くてスタイルの良い新人が次々と出てくるシビアな世界なのに、誰にも負けない「私だけの強み」というのがなかったんです。

だからこそ「介護」という新たなチャレンジが、現状を打破するきっかけになるかもしれない、という期待もありました。

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実際に、グループホームで働き始めた当初はいかがでしたか?

入社当時、他のスタッフたちからは“芸能人”という色眼鏡で見られていたと思います。「どうせ続かないんでしょ」みたいな冷たい空気を感じました。資格も持っていなかったため、任される業務は清掃やベッドメイクが多かったですし。

けれど、だんだんそれじゃ物足りなくなってきて、勤めはじめて半年後には初任者研修と実務者研修を受けることを決めました。先輩のケアの様子を間近に見るうちに、誰かを支える介護職ってすごく素敵な仕事だなと思うようになったんです。実務経験3年をクリアした2019年には、介護福祉士も取得しました。

スケジュール

芸能活動と資格勉強の両立は大変だったかと思います。

私、負けず嫌いなんですよ。施設スタッフだけでなく、母からも「すぐ辞めるよね」なんて言われてて、それが本当に悔しくって。なんとか認めてもらいたいという一心でした。それに、芸能という不安定な業界に身を置くからこそ、手に職をつけることへの憧れも強かったです。

結局、介護福祉士受験のタイミングで、集中して勉強に取り組むためにも、ロケで生活が不規則になるグラビア活動は引退しました。気が付くと、介護の魅力にどっぷりハマっているような状態でしたね。

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「隠し事はしない」が秘策。人生の大先輩に嘘は通用しない

冒頭でサ高住兼有料老人ホームにお勤め中と伺いましたが、グループホームから転職されたのはいつですか?

グループホームに丸7年いて、今の職場に転職してきたのは約1年前です。現在はこういった取材などタレント活動をこなしながら、パートタイマーとして週3日程度ケア業務を行っています。

前の施設はとても居心地が良く、そちらで働き続けるという選択肢もあったんですけどね。ただ、同じところに長く勤めるうちに「自分の技術はここでしか通用しないんじゃないか」とふと怖くなる瞬間があって。スキルアップと知見を広げる目的で転職を決めました。

           
Before After
雇用形態 パートタイム パートタイム
業種 グループホーム サービス付き高齢者住宅・有料老人ホーム
職種 介護士 介護士
勤務時間 シフト制 シフト制
休日 シフト制 シフト制
業務内容 身体介助、生活支援 身体介助、生活支援

グループホームと老人ホームを比べて、介護士に求められるスキルに違いはありますか?

グループホームは認知症の方が生活していますから、日々の生活全般にお手伝いが必要でした。

一方、今の施設は自立度の高い利用者様が多く、身体介助の面ではそこまで高度なレベルは要求されません。それよりも重視されるのはコミュニケーションの部分です。グループホームに比べて、より高い対人スキルが求められます。

ごまかしたり誘導するといった小手先の技が使えない、と。

そうなんです。たとえケアを拒否されたとしても、認知症の利用者様なら声かけを少し変えるだけで動いてもらえるパターンはあります。でも、自立されている利用者様だとなかなかそうはいきません。

加えて、ハイクラス向けの施設のため、現役時代は大企業の重役さんだったり、ご自身で事業をなさっていたような方もたくさんいらっしゃいます。百戦錬磨な皆さんには通り一遍の説明はまったく通用せず、すごく難しいです。

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こちらの戦略が見抜かれてしまうんですね。

ええ(苦笑)。頭はフル回転ですよ。転職してしばらくは、どうやって攻略すればいいのか悩みに悩む毎日でした。

けれど、このコミュニケーションの難しさは、苦労ばかりではなくやりがいにもつながっています。利用者様は人生の大先輩。悩みや相談に乗っていただくなど、1対1の深い関係性が築けるのがとても楽しいです。

どんなお話をされるんですか?

仕事だけじゃなく、プライベートのことなど本当に色々。特に女性の利用者様は、恋バナにもノリノリで答えてくださいます。しょっちゅう「あなた、もういい加減に結婚決めなさいよ」なんてハッパかけられてるから頑張らないと(笑)。

モチベーショングラフ

やはり、利用者様に心を開いてもらうためには、介護者側もオープンになる必要がある?

そう思います。

介助される側って、情けないとか恥ずかしいといった気持ちを押し殺して、我が身を相手に委ねなきゃいけない時もあるじゃないですか?

それなのに、介護士が自分のことを隠したままなのはフェアじゃないなって思ってて。相手のことを知りたい時は、まず自分のことをお伝えするのが礼儀かなと。

だから私は、自分がこれまでやってきたことや日頃感じている想いなど、何でも利用者様にお話しします。私自身のことを知ってもらった後で、皆さんのことも教えてくださいというスタンスが、一番うまくいくコミュニケーションの取り方のような気がします。

根気強くアプローチを続けるうちに、何ヶ月も無表情で口数も少なかった利用者様が笑顔でご自身のことをお話してくれるようになった時は、ものすごい達成感が得られます。

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村上さんのそのコミュニケーション術は、どこで培われたのでしょうか?

グラビアという特殊な世界で、10代の頃から年上の方々とお仕事をしてきたのが活きていると思います。

撮影現場では、相手がどんなに目上の人であっても、臆せず自分自身を発信する必要がありました。タレント本人が「私は私をこんな風に表現したい」と主張しなければ、理想とは異なる売り方・見せ方になってしまう場合もあり、そうなると後から後悔するのは自分ですから。

その時のご経験は、一緒に働く施設スタッフとのチームづくりという面でも役に立っていそうですね。

そうですね。関わる人たち全員が意見やアイデアを持ち寄り、より良い結果のために試行錯誤するという点で、介護施設と撮影現場はよく似ているかも。

気難しい利用者様がいらっしゃったとして、誰かのほんの小さな気づきがスムーズなケアを行うヒントになるケースは多々あります。ベテランや新人に関わらず、たくさんのスタッフの目で見て、気がついたこと・感じたことをシェアする。これは、良い施設づくりのために絶対に欠かせない要素です。

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良い部分も悪い部分もあるけれど、それでもやっぱり介護が好き

日々の身体介助のシーンで、村上さんが特に意識していることはどんなことがありますか?

祖母の転倒事故が記憶に残っているので、安全面の確認は怠りません。特に心がけているのは、利用者様それぞれの状態をよく把握しておくこと。片側麻痺だったらお体のどちらを支えるか、前傾姿勢の方なら正面で転倒に備えようとか、考えることは山ほどあります。

利用者様とのコミュニケーションのお話の時も感じましたが、介護の現場にはさまざまなスキルが求められますよね。

そうなんです!

世の中には、介護の仕事を低く見てる人がまだまだたくさんいます。「介護くらい誰でもできる」みたいに、特に努力しなくてもこなせる仕事だと思われているのがすごく悔しい。介助技術や対人スキルはもちろん、臨機応変さや先を見通す視野の広さなど、色んな能力がないと務まらないのに。

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村上さんは介護をテーマにSNSで発信されていますが、介護職の地位向上を目指している?

まずは「介護の仕事って確かに大変だけど、本当に楽しい仕事だよ」と知ってもらうことかな。私、この仕事を辞めたいと思ったことが一度もないんですよね。こんなに毎日やりがいを感じられる仕事って、他にないんじゃないかと思ってて。色んな人にケア業務の魅力を伝えたいです。

「大変だけど、楽しい」とおっしゃったのが、すごく等身大で現実的な言葉だなと思いました。

よく、高齢者虐待のニュースが取り沙汰されますが、それ以上に、介護士が利用者様からセクハラやちょっとした暴力などを受ける機会は多かったりします。そういうマイナスな話はオープンにしたくないと考える関係者もいるでしょうが、ありのままの姿を伝えるべきだと思うし、それでも「楽しい」って言える仕事だなんて、むしろすごくないですか?

私の影響力なんてほんの小さなものだけど、少しでも世間の目を変えるきっかけになればいいなと思っています。嬉しいことに、ライブ配信を聞いてくれた人から「村上さんの話を聞いて、自分も介護の仕事を始めてみました」というコメントをいただくこともあるんですよ。

それは励みになりますね!これからの発信も楽しみにしています。

介護士歴9年目。今、私が思うこと

「みんなの介護求人」にも、職場の人間関係が合わなくて仕事を辞めたいという介護職の方の声が届きます。先輩として何かアドバイスいただけますか?

割り切ること、かな。

複数の人間が集まると、どうしたって一人くらいは、自分と相性の悪い人がいて当然だと思うんです。だから、合わない人がいても「仕方ない」とスッパリ諦める。最低限の挨拶や業務連絡だけしておけば、仲良くしなきゃって頑張る必要はないし、そもそも自分の思う通りに他者を動かすことなんて到底無理ですもん。

普段も、私はこういった愚痴を聞く立場になることが多いんですが、人間関係に悩む方に対しては「職場以外の楽しみや趣味に目を向けてみよ?」と伝えるようにしています。目の前の問題に頭がいっぱいになっちゃうから「辞めるしかない」と白黒つけざるを得なくなるわけで、もう少し広い範囲を見渡してみれば、所詮仕事は仕事と割り切れるようになると思います。

村上さんご自身はどういった癒しや趣味をお持ちですか?

私は愛犬のおかげで頑張れていますね。以前、色々相談してくれていた同僚も犬好きだったので、癒されるワンコ動画を紹介して励ましたことがあります。動物の力って偉大ですよね~♡

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最後に、村上さんの夢を教えてください。

これまで出会ってきた高齢者ケアのプロたちを集めて、新たな介護施設を立ち上げること。自分自身が「ここに住みたい!」と思える、私の理想がいっぱい詰まった楽しい施設をつくりたいんです。具体的なイメージとしては、地域の子どもたちと日常的に交流があったり、施設でペットを飼ってみんなでお世話するのもいいな、なんて。

普段たくさんの利用者様と接する中で、他者とのつながりとか、熱中している趣味とか、自分なりの生きがいを持っている人って本当にお元気だなと感じます。そういった「生きる楽しさ」を育むサポートができるといいですよね。

ケアのお仕事も9年目となり、色んなことが見えるようになりました。これからもずっと、介護の世界に携わっていきたいと思います。

取材写真

撮影:丸山剛史