今回のゲストは、山梨市デイサービスセンター(運営:やさしい手甲府)の管理者・中嶋誠さん。前職では飲料メーカーで品質管理のお仕事をしていました。一人で黙々と商品に向き合う毎日から、コミュニケーションが大切な介護職へと大変化。「“楽しむ気持ち”を大事にしたい」と語る中嶋さんの、転職のきっかけや介護に対する思いなどをうかがいました。

メーカーで品質管理に従事していたが、祖母の認知症をきっかけにホームヘルパー2級を取得。実習先の事業所から誘われ、介護の世界へと飛び込んだ。デイサービスセンターで介護士として勤務したのち、現在は管理者を務める。製菓学校を卒業し、パンづくりが得意な4児の父。
1996年〜2001年 | 東京の専門学校を卒業後、山梨県へUターン就職 |
2001年〜2007年 | 飲料メーカーで品質管理業務に従事 |
2007年9月〜 | 株式会社やさしい手甲府へ入社 |
中嶋誠さんのLIFE STORY
祖母への思いが介護の道へと進むきっかけに
以前はどんなお仕事をされていたんですか?
飲料メーカーの品質検査の仕事です。お水や清涼飲料水などの成分分析・細菌検査が主な業務ですね。新商品の開発なども行っていました。
Before | After | |
---|---|---|
雇用形態 | 正社員 | 正社員 |
業種 | 飲料メーカー | デイサービス事業所 |
職種 | 品質管理 | 管理者 |
勤務時間 | 8:30~17:30(残業3時間) | 8:30〜17:30(残業1時間) |
休日 | 月9回のシフト制 | 月9回のシフト制 |
仕事内容 | 飲料水等の検査・商品開発 | 事業所管理および身体介助 |
現在の介護のお仕事とはまったく異なるご職業ですね。
そうですね。一人で黙々と集中して行うような作業が好きなんです。高校卒業後は、東京の製菓学校で製パンの勉強をしていたんですよ。パン屋さんへの就職を考えていましたが、東京の人の多さにどうしても馴染めなくて。地元・山梨へ戻ることにしました。
でもUターン就職となると、山梨でパン職人としての働き口を見つけるのはなかなか難しく、断念しました。在学中に製菓衛生師の資格を取ったことから、添加物の安全性に関する知識などがあったため、品質検査の仕事に就きました。

介護の世界へ興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?
家族の介護がきっかけです。私が30歳くらいの頃、祖母が軽度の認知症を患い、在宅介護の生活が始まりました。
けれど、家族の誰も認知症の人への適切な対応などがわからなく、ずいぶん苦労したんです。知識がなければ介護というのは難しいものだなと実感しましたね。祖母や家族の手助けになりたいという思いから、ホームヘルパー2級(現・初任者研修)の資格取得を目指しました。どうせ勉強するなら、せっかくだから介護の仕事にチャレンジしてみようとも考え、仕事は辞めて資格講座に集中することにしたんです。
なるほど。では、なぜ「やさしい手甲府」を就職先に選んだのですか?
実習先が「やさしい手甲府」の事業所だったんです。そこの管理者から「うちで働かないか?」と声を掛けてもらいました。実習の最中、明るい雰囲気の職場だなと好印象を持っていたため、資格を取得した後もこちらでお世話になることを決めました。

入社後から現在までの業務内容を教えてください。
法人内には、通所介護(デイサービス)・訪問介護・ケアマネ支援の3部門があり、私は入社以来ずっと、通所介護での勤務を続けています。
最初に配属されたのは、認知症専門のデイサービス事業所でした。こちらでは介護士として、利用者様の身体介助やレクリエーションなどをしていました。35歳ではじめて管理者となり、数ヵ所の事業所の異動を経て、今年4月からこの「山梨市デイサービスセンター」で勤務しています。
管理者とは、どういったお仕事をされるのですか?
施設運営に関するマネジメント全般です。スタッフの採用・育成はもちろん、安定した稼働率のため、外部への営業活動も行います。これは私だけかもしれませんが「トイレの扉の調子が悪い」なんて時は自分で修理することも。DIYが得意なんですよ。言ってみれば「なんでも屋さん」ですね。
また、山梨市デイサービスセンターは自治体からの指定管理事業のため、定期的に市への報告義務があります。これまでにいた事業所よりも、書類作成をする時間が少し増えたかなという感覚です。
マネジメント業務だけでなく、現場のお手伝いにも入られますか?
はい。スタッフの手が足りない時は現場に入りますし、送迎は基本的に私の役割です。以前より事務作業が多くなったとはいえ、残業は1日に1時間程度です。前職では毎日3〜4時間は残業していたので、ずいぶん楽になりました。

当事業所の利用者様は比較的介護度の低い方が多いため、とても明るく元気な雰囲気です。レクリエーションや機能訓練も活発ですね。介護士をしていた頃はレクの企画が大好きだったので、自分も輪の中に入りたいなぁと思いながら横目で見ています(笑)。
コミュニケーションに必要なのは「相手を敬う心」
資格を取得されての転職でしたが、実際にお仕事をはじめて戸惑いを感じたことはありましたか?
最初に配属された事業所では、重度の認知症の方と接することが多く、かなり試行錯誤しました。勉強しただけではわからない、想像以上の大変さがありましたね。
中でも一番苦労された点は?
認知症特有の症状の一例である、物取られ妄想や暴言・暴力といった行動が出てしまう利用者様への対応です。病気だから仕方ないと頭ではわかっているんですが、はじめは落ち込むことも…。
それでも、継続するうちに自分の中で経験値が積み上がって、状況に応じた対処法を身に付けることができました。また、自分の感情の処理の仕方がわかってきたのも大きいと思います。この事業所での経験があったからこそ、今でも仕事中は常に冷静でニュートラルな感情でいられます。

やりがいを感じる瞬間についても教えてください。
やはり、利用者様の笑顔を見られた時ですね。特に、普段コミュニケーションを取ることが難しい認知症の方が楽しそうに笑ってくれたり、「ありがとう」と言ってくれた時は「この仕事をやってて良かった!」と思う瞬間です。
新人の頃に出会った認知症の利用者様の中に、10年近く同じ事業所をご利用いただいていた方がいます。もちろん私のことを忘れてしまう時もあるんですが、それでもすごく頼りにしてくれまして。かなり重度の認知症を患われていたため、ケアが大変な部分もありましたが、それも逆にやりがいへとつながりました。私を成長させてくれた大切な思い出です。
介護職へ転職するにあたり、高齢者への応対や人間関係について不安を持つ方もいるかと思います。中嶋さんは、人とコミュニケーションを取ることがもともと得意だったんですか?
いえ、これが全然ダメで(笑)。実は、人と接することが苦手な性格だったんですよ。そのため入社当初は「もっと利用者さんと話して」「言葉が足りないよ」なんて、先輩に注意されていました。
でも徐々に高齢者の方とお話をすることにも慣れて、うまくコミュニケーションを取れるようになりました。これまで接することのなかった世代やバックグラウンドの方々と出会い、新たな人間関係を築けることは、介護の仕事ならではの得難い経験だなと思います。
利用者様と接する際に、気を付けていることはありますか?
相手を敬う気持ちを忘れないことですね。「お世話をしてあげる」という傲慢な考えは絶対にあってはいけないこと。介護者と被介護者が対等な関係であることが、介護の基本的なコミュニケーションではないでしょうか。

オン・オフの切替で仕事と家庭の両立を
今のお仕事に、前職での経験は生かされていますか?
新卒で就職してしばらくは、なかなか学生気分が抜けきらず、時間にルーズだった部分がありました。例えば「時間ギリギリに出勤すればいいや」と、アルバイト感覚で考えていたんですね。でも「新人なんだから、早めに来て準備すること・学ぶことはたくさんある」と当時の上司に叱られ、働くことへの心構えや姿勢を叩き込まれました。これは20年以上経った今も、大切にしている感覚です。転職後も、少し早めに職場に来て、当日すべき業務の段取りを整えることを心掛けています。
早めの出勤以外にも、マイルールとして何か実践していることはありますか?
勤務前にコーヒーを飲むことが習慣になっています。今の職場が、自宅からすごく近いんですよ。朝のぼんやりした状態のまま、職場に到着してしまうこともしばしば(笑)。だから、まずはブラックコーヒーを飲んでシャキッと頭を切り替える。そして、入念に手洗い・消毒をすることで気持ちを引き締め、「よし、やるぞ!」と仕事をスタートするようにしています。

お休みの日はどのようにお過ごしですか?
4人の子どもたちと遊びに出かけることが多いですね。特に、登山などアウトドアが大好きです。このあたりは少し車を走らせれば、きれいな川で釣りなども楽しめますから、子育てに最高の土地だと思います。
ほかには、製菓学校卒業の技を生かして、クッキーづくりだってしますよ。子ども達も大喜びです。パン職人にならなかった当時の私に、両親は「せっかく専門学校を出たのに…」とがっかりした顔を見せることもありましたが、こうしてちゃんと役に立っています(笑)。
4児の父として、仕事と家庭の両立のために意識していることなど教えてください。
「なんでも楽しむこと」が大事ですね。我が家は共働きのため、家事・育児の分担は必須。お風呂場や台所など水回りの掃除は私の担当です。もともと掃除が好きということもありますが、「面倒くさい」ではなく、とことん楽しみながらこだわってやっています。
一方、仕事に関しては、無駄な時間をつくらないという強い意思が重要でしょうか。業務中は集中して仕事に取り組む。オンとオフの切り替えが何より大切だと思います。

みんなにとって「楽しい介護」が一番の理想!
ずばり、今後の目標は?
管理者としての目標は「安定した事業所づくり」につきます。利用者様が安心して通え、スタッフはいつも笑顔で、大きなトラブルもなく毎日の業務を終えられること。当たり前だけど、それが何より大切なんです。そして自分自身は、定年まで楽しく仕事していきたいなと(笑)。
中嶋さんのお話には「楽しい」というキーワードがよく出てきますね。
入所施設と違い、デイサービスは、利用者様が施設で過ごす時間って限られていますよね。だからこそ「また明日もここに来たいな」と思っていただける事業所であることが、一番の理想だと思っています。そして、利用者様へとびきり楽しい時間をご提供するのと同時に、スタッフにも楽しみながら仕事をしてもらいたい。自分自身が充実した気持ちでいないと、相手を喜ばせるのって難しいじゃないですか?

同感です。では、スタッフの皆さんが楽しくお仕事できるよう、取り組んでいることは?
何はともあれ、働きやすい環境づくりですね。モチベーションを持続するためにも、有休などしっかり休みを取るように声掛けしています。
また、うちは半数以上が女性スタッフなので、ご家庭の事情を察してあげること。お子さんの体調不良などで急なお休みをする場合も、みんなでフォローし合いながら頑張っています。忙しい時は「もうちょっと長くいてくれたらな…」と正直心の中では思いますが(笑)、こればかりはお互い様。私も育児の大変さは身に染みてわかっているので、できる限り力になりたいと思っています。
せっかくご縁があって一緒に働くことになった仲間ですから、長く働いてもらいたいですし、和気あいあいとした楽しい職場でありたいです。
最後に、介護業界への転職を考えている皆さんへ、メッセージをお願いします。
「大変そう」「キツそう」など、介護に対してマイナスイメージを持たれている方も多いかと思います。けれど、実際にこの仕事を体験していただければ、楽しさややりがいを絶対に感じてもらえると断言します。ぜひ、一度足を踏み入れてみてください。
撮影:丸山剛史
はこちら 株式会社やさしい手甲府