今回は、神奈川県横浜市にある介護付有料老人ホーム「シニアフォレスト横浜港北」へお邪魔しました。同施設の生活相談員として働く小野さんは、高い営業力で知られる大手事業会社でも活躍していた生粋の営業マン。「介護で苦しむ人を助けたい」と語る小野さんですが、そう感じるようになったきっかけとは?転職後も生かされているビジネススキルについても詳しくお聞きしました。

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Profile 施設長補佐 兼 生活相談員 小野 秀一さん

大手企業で法人向け営業を経験後、薬局へ転職。業務を通じて、在宅で不自由な生活を送る高齢者や介護負担に苦しむ家族など、さまざまな福祉課題に直面する。2019年、生活支援員として株式会社メディカルケアシステムへ入社。「周囲のすべての人々が幸せになれる」理想の介護を目指して奔走中。

経歴
1995年〜2010年 大手事業会社で営業マンとして活躍
2010年〜2019年 調剤薬局で在宅療養者向け営業に従事
2019年7月 株式会社メディカルケアシステム入社
長所 堅実・実直
短所 慎重すぎるところ
趣味 野球、神社仏閣めぐり
特技 マッサージ

なんとかしたい!前職で目にした介護の現実

まずは、以前のお仕事について聞かせてください。

20年以上、営業の仕事についていました。IT・通信に関する分野で法人向け営業を経験したのち、在宅医療の支援に力を入れている調剤薬局の会社へ転職しました。そこでは、薬局へお薬を取りに行けない高齢者やそのご家族に対し、薬剤師がご自宅までお薬をお届けするサービスのご案内をすることが主な仕事でした。また、会社の地域貢献の一環として、訪問診療医や地域包括支援センターと協働して、市民向けの健康相談会なども企画・開催していました。

前職では、介護や福祉の課題に触れることもありましたか?

はい。それまで福祉の世界とは無縁だったため、とにかく初めて知ることだらけでした。認知症をはじめ、病気や加齢による衰えにより、外出もままならない高齢者が地域にはこんなにたくさんいらっしゃるのかと驚きましたね。また、重い介護負担に苦しむご家族の姿も目の当たりにし、自分に何かできることはないかと考えるようになりました。

なんとかしたい!前職で目にした介護の現実

それが介護のお仕事へ転職されたきっかけでしょうか。

そうですね。前職を退職する頃は、もう介護のことしか頭にないような状態でした。福祉人材の慢性的な人手不足などもよく耳にしていましたから、「それならいっそ自分が」という気持ちもありました。もともと、自分が感じたことを直感的にすぐ実行に移す性格なこともあって、「今しかない」と介護の道へ飛び込んだのが2年前です。

転職にあたっては何社か応募しましたが、企業理念に最も共感したのがメディアカルケアシステムです。「かかわる方すべての幸せのために」というビジョンのもと、高齢者ご本人だけでなく、そのご家族や施設で働くスタッフの幸せも大事にする。その考え方が気持ち良いなと感じましたね。

前職では、営業という立ち位置だったこともあり、仕事の目的が売上の追求に偏ってしまうこともままありました。その結果、「患者さんを置き去りにしてしまっているのではないか」「本当にご本人のためになっているのか」と自問自答するケースもあって、理想と現実のギャップにジレンマを感じていたんです。苦い経験を経た後だからこそ、ここなら私の目指す仕事ができるのではないかと考え、入社を決めました。

  Before After
雇用形態 正社員 正社員
業種 小売業(調剤薬局) 介護付有料老人ホーム
職種 営業職 施設長補佐 兼
生活相談員
勤務時間 9:00~18:00(残業2時間) 9:00〜18:00
休日 土日祝 月8回のシフト制
仕事内容 営業 人材育成や営業などの施設運営
相談業務

人を育てるために必要なのは相手に尽くす心

現在のお仕事について詳しくお聞かせください。

生活相談員として働いています。入退去にまつわる相談対応と契約などの諸手続き、入居者獲得のための営業活動、外部機関との連絡調整などが主な業務です。介護スタッフの手が足りない時には、現場に入って身体介助のお手伝いもしています。割合としては、相談業務7:介護業務3くらいでしょうか。

「施設長補佐」という肩書きももらっており、施設長は主に現場をまとめ、私が事務方のマネジメントを担うといった役割分担で動いています。スタッフの採用・育成など、人事面も私の担当です。そのため、ご利用者様・ご家族だけでなく、スタッフからの相談に乗ることも大切な仕事ですね。働きやすい環境を整え、スタッフの定着率を上げることで、より質の高い介護が提供できる施設づくりを目指しています。

休日はシフト制で月8日、勤務時間は9:00〜18:00です。残業はほとんどありません。前職では2〜3時間は残業をしていたので、勤務後はのんびり過ごせるようになりましたね。

人を育てるために必要なのは相手に尽くす心

人事もご担当されているとのことですが、「人を育てる」にあたって気を付けていることはありますか?

何でも気軽に相談してほしいので、誰に対しても親しみやすく話しやすい人間でいることを心がけています。アルバイトのなかにはまだ大学生の子もいますから、年長者で取っつきにくいと思われないよう気を配っています。

また、指導が必要な場合も、怒るのではなく理論的に話すことが大切ですね。間違ったことはきちんと正さなければいけませんが、その理由をしっかり伝えて、理解してもらうことが重要。「できるだけ目立たない、怒鳴らない」を常に意識しています。

弊社の理念の一つに「サーバントリーダーシップ」があります。これは「相手に命令するのではなく、奉仕・支援することで相手を導いていく」というリーダー論ですが、自分の性に合っているなと感じます。趣味の野球でも、人がやりたがらないポジションを引き受けることが多いんですよ。例えばキャッチャーは立ったり座ったりの連続でこの年齢になると正直しんどいですが、「お前やれよ」なんて頼まれるのも別に嫌じゃなかったりします(笑)。まさに、縁の下の力持ちですね。

小野さんは気遣いの方だなと感じるお話です。黒子役に徹されているんですね。

私は大学で野球部に所属していたんですが、その時の監督がとてもユニークな指導方針をお持ちでした。厳しい指導・つらい練習といった根性論が主流だった当時、学生の自主性を尊重した画期的な指導スタイルで、なんと大学日本一のタイトルを獲ったんです。この監督との出会いを通して、日本の従来どおりの人の育て方や組織のあり方に、疑問を感じるようになりました。

今、人材に関するマネジメントを任されるようになり、大学時代の経験も思い出しながら理想を実践できる機会を得て、大変やりがいを感じています。あとは、単純に、スタッフのみんなには楽しく働いてほしいですしね。ここをもっと良い施設にしていくことが私の望みです。

人を育てるために必要なのは相手に尽くす心

ほかに、やりがいや充実感を感じるのはどのような瞬間ですか?

やはり一番は、ご相談いただいた課題を解決するお手伝いができた時ですね。

以前、親御さんの介護が大変な負担になっていたご家族との出会いがありました。私がご対応し、当施設へ入居が決定した時、涙を流しながら「小野さんのおかげで救われました。良い施設にめぐり合えて良かった。本当にありがとう」と何度も頭を下げられたんです。自分の仕事が誰かの幸せにつながったと感じたあの瞬間、これまでにない感動を覚えました。

小野さんの転職のきっかけは、介護の課題をなんとかしたいといった想いからでした。それを考えるととても感慨深いですね。

相手が困っている姿を目の前にしていながらも、前職ではそこまで踏み込めませんでした。自分が歯痒さを感じていた領域へも、今なら手を差し伸べることができる。これは本当に嬉しいですし、転職して良かったと改めて噛み締める一瞬ですね。

人を育てるために必要なのは相手に尽くす心

目標設定でさらなるモチベーションアップを

前職でのスキルや経験はどのように生かされているかを教えてください。

施設を運営する立場としては、経営上の数字をシビアに見ていく必要があります。突然のご不調などが起こりやすい高齢者を対象としているため、入退居の予測がつかない部分があって特に入居率の管理は困難です。そんな中、施設のPRに努め、入居をご検討されている方々へじっくりヒアリングを行い、見学などを通してご提案を重ね、無事に契約が決まった時は、前職の営業スキルを存分に生かせていると感じます。

また、周囲のスタッフとの円滑な関係づくりにも、過去の経験が発揮されていると思います。営業職は、相手の様子を感じ取りながら会話を進め、隠れた本音を引き出し、こちらの話を聞いてもらわなければいけません。前職で培ったコミュニケーション力は、いたる所で役立っています。

なるほど。契約のお話に関しては、やはり営業マンの血が騒ぐということでしょうか。

あはは、その通りです(笑)。営業職でバリバリ働いていた当時は契約を取ることが当たり前すぎて気がつきませんでしたが、それだけじゃなくなった今、「自分は営業が好きなんだな」と改めて実感しています。

それに、やっぱり数値目標があると燃えますね。もちろん、入居者様が幸せな生活を送るため働くというのが介護職の本質ではありますが、仕事への高いモチベーションを維持するためにも、100%(満床)をキープするという骨のある目標設定を掲げ、楽しみながら業務を行っています。

目標設定でさらなるモチベーションアップを

お仕事以外に、毎日の生活での目標設定やマイルールとして実行していることはありますか?

毎朝5時半に起床し、出勤前のストレッチとランニングは欠かしません。これは15年以上続けている習慣ですね。仕事が忙しかったり天候が悪くて走れない日が続くと、なぜか昼間も調子が出なくて。頭が痛かったり体が重くなったりしてしまいます。生活の一部になっているんでしょうね。

体を動かすことがお好きなんですね。

今でも、中学時代の部活の仲間と草野球チームをつくっています。休みの日は試合に出ることが多いですね。最近はコロナで自粛中ですが、試合の後にメンバーと一緒に食事に行くのも大きな楽しみ。翌日の仕事への活力になります。

業務中の気分転換はどのようにされていますか?

中庭のベンチで、ぼんやり頭と体を休めることです。業務中は常に誰かとコミュニケーションを取っているため、一人になって一旦リセットする感じですね。

あと、私は朝食をしっかり摂る派で、お昼はあまり食べないんですが、実は甘いものが大好き。見た目に似合わないと言われますけど(笑)。菓子パンやコンビニスイーツなどを買い込んで、休憩時間に一人でこっそり食べています。

目標設定でさらなるモチベーションアップを

利用者様・ご家族・スタッフ、みんなが愛する施設にしたい

小野さんご自身のこれからの目標を聞かせてください。

今はまだ、これまでの仕事や人生の経験値で動いている部分が多いので、もっと体系的に介護のことを知りたいという気持ちが強くあります。介護福祉士の資格取得を目指し、まずは実務者研修の勉強を頑張りたいですね。

利用者様・ご家族・スタッフ、みんなが愛する施設にしたい

シニアフォレスト横浜港北を、どんな施設にしていきたいですか?

入居者様・ご家族様から、さらに愛され信頼される施設にすること。そのために、まずはスタッフの定着率が高い施設になることを目標にしています。スタッフ全員が「ここで働いて良かった」と心から思える職場が理想です。

具体的な取り組みの一つとしては、月に1回ミーティングを開いています。パートさんやアルバイトさんも含め、希望者は誰でも参加できる形態を取っており、アイデアや意見を遠慮なく発言できる場となっています。

最後に、介護業界への転職を考えている方へエールをお願いします。

介護の仕事には、経験した人にしかわからない感動ややりがい、楽しさがあります。それも、言葉では言い表せないくらいの大きな感動です。介護業界は大変だと言われることもありますが、実際の現場は明るく笑いにあふれていますよ。

少しでも関心を持っている方がいましたら、ためらう必要はありません。仕事って、実際にやってみないと本当のことはわかりませんからね。体験して初めて「私、実はこの仕事に向いてたんだ!」という気づきを得るのはよくあること。私自身、昔は福祉の分野にまったく興味がなかったですしね。 相手を思いやれるやさしい気持ち、仲間と協力しようという意識、あとは少しのやる気があれば大丈夫。みなさんのチャレンジをお待ちしています。

利用者様・ご家族・スタッフ、みんなが愛する施設にしたい

撮影:丸山剛史