今回は、株式会社クラーチが運営する介護付き有料老人ホーム「クラーチ・エレガンタ本郷」(東京都文京区)の介護士・水村昭彦さんの転職ストーリーをご紹介。高級ホテルでフロントスタッフを長年経験された水村さんは、2015年に介護業界でのキャリアをスタート。「ホテルの顔」とも言える華やかなポジションからの転身で、サービスのプロが思う「介護の仕事の魅力」とは。詳しくお話を伺いました。

専門学校を卒業後、都内ホテルでフロントスタッフとして活躍する。2015年ホテル閉鎖をきっかけに株式会社クラーチへ入社。当初は老人ホームのフロント業務に就いていたが、初任者・実務者研修の履修を経て、同施設の介護士としてリスタートした。 奥様とお子さんの3人家族で、現在高校生の長男と一緒にお酒を飲める日を心待ちにしている。
1991年〜1993年 | 専門学校でホテルサービスの技術を学ぶ |
1993年〜2015年 | 都内ホテルにてフロントスタッフとして活躍 |
2015年〜2020年 | フロントスタッフとして株式会社クラーチ入社 |
2020年1月〜 | 同社にて介護士へ職種変更 |
水村昭彦さんのLIFE STORY
華やかな「ホテルの顔」から福祉の世界へ
まずは、前職について教えてください
ホテルのフロントスタッフとして働いていました。高校生の頃、人を笑顔にできるサービス業に憧れて、ホテルスタッフを育成する専門学校へ進学しました。卒業後、新卒で入ったホテルが3年で閉鎖となってしまったため、会員制の高級ホテルに転職しました。そこで20年間勤務し、フロント業務のほか、管理職の一人として20名以上のスタッフのマネジメントを経験しました。

憧れていた職場で活躍され、順風満帆だったように思えます。それでも転職されたきっかけとは?
2015年に、そのホテルも閉鎖になったんです。正直、途方に暮れましたね(苦笑)。40歳を過ぎて家族もいて…という状況だったため、この時期はどん底まで気持ちが落ちていました。
次のステージとして経験豊富なホテル業界ではなく、介護業界を選んだ理由は何だったのですか?
やはり、2度もホテルの閉鎖による失業を経験したことがショックだったからです。業界全体の将来性を考えると、またホテルマンとして再就職するのは本当にベストな選択だろうかとずいぶん悩みました。
そんなとき、「クラーチ・エレガンタ本郷」のフロントスタッフの求人が目に留まったんです。早速応募して、面接で「おもてなしの心を大切にした施設運営であること」を聞き、「入居者様に富裕層が多く、勤務していた高級ホテルと通ずるものがある」と考えました。成長性のある介護業界で、これまでの自分のキャリアやスキルを活かしたいと思い、入社を決めました。
入社後の数年間は、フロントスタッフとして勤務していました。そして2019年に一念発起して、介護職員初任者研修と実務者研修を受講しました。翌年1月からは、介護士として入居者様の身体介助も行えるようになりました。
Before | After | |
---|---|---|
雇用形態 | 正社員 | 正社員 |
業種 | ホテル | 介護付き有料老人ホーム |
職種 | 宿泊部アシスタントマネージャー | 介護士 |
勤務時間 | 10:00〜19:00、13:00〜22:00 | 10:00〜19:00、11:00〜20:00 |
休日 | 月休8日のシフト制 | 月休10日のシフト制 (フリー休暇含む) |
仕事内容 | フロント業務・スタッフ管理 | 身体介助・生活支援 |
より良いサービスを提供するために身体介助にも挑戦
フロントスタッフから介護士としてのキャリアチェンジを決意したのはなぜですか?
認知症の入居者様に対して、よりきめ細やかな対応ができるようになりたいと思ったからです。フロントにいた頃も、入居者様との接点はたくさんありました。しかし、介護の知識が不十分なばかりに、うまくコミュニケーションをとれない自分に歯痒さを感じていたんです。
そんなとき、介護士の資格を取り、ケア業務をやってみるのはどうかと支配人が勧めてくれました。支配人自身、もともと看護師として入社したのち、数年後はケアマネ業務に専念しキャリアを積み、現在は施設責任者として活躍する経歴の持ち主です。異業種から介護の現場に飛び込み、道を切り開いていった彼女の話はとても説得力があり、大きな後押しになりましたね。

働きながらの初任者研修や実務者研修の受講は大変でしたか?
はい、大変でした。「5日間勤務して、休みの2日間で勉強する」という生活が、約1年間続きましたね。けれど、講座で出会った仲間たちと、お互い高め合い励まし合いながら勉強を進めることができました。彼らとは、今でもオンラインで近況報告をするなど交流が続いています。世代も性別もバラバラですが、志を同じにする仲間とのつながりは、まさに一生の宝だと思っています。
受講に際しては、資格取得手当として研修費用を一部補助してくれる会社の制度を使いました。働きながら学びを深め、キャリアアップを目指すことができるこの制度はとてもありがたいですね。
介護士としてスタートされて1年半ですね。やりがいを感じる瞬間はいつですか?
以前はコミュニケーションが困難だった認知症の入居者様に、「ありがとう」と言ってもらえたときですね。「嬉しい」や「楽しい」などといった感情をしっかり感じ取り、それを言葉にして私に伝えてくれたこと、それはその方の心からの感情表現です。ホテルマンのときもたくさんの感謝の言葉をお客様からいただいてきましたが、それとはまた違った重みがあり、本当に嬉しくやりがいを感じられる瞬間です。
お仕事内容を詳しく教えてください。
排泄介助などを含む身体的介助全般です。また、支援の必要がない入居者様もいらっしゃいますので、介助以外でも居室を訪問してお声掛けし、ご本人さえ良ければ、お部屋の整理整頓などちょっとしたお手伝いやお話相手など、短時間でも毎日必ずコミュニケーションを取るようにしています。
そのほかに、施設内の掃除や、入居者様の日々の様子を記録してスタッフ間でシェアすることも大切な仕事ですね。

現在の勤務形態など、働き方はいかがですか?
勤務体制はシフト制です。公休が月に9日と、会社独自のフリー休暇が1日をあわせて、1ヵ月で10日間のお休みがあります。
勤務時間は主に10時~19時か11時~20時の日勤帯で、夜勤にも月に2回程度入ります。前職もシフト制だったためライフスタイルに大きな変化はありませんが、アニバーサリー休暇や、有給を使った連休も調整しやすいのでありがたいです。

介護の現場で感じたホスピタリティのギャップ
前職で培ったスキルは現職にどのように活かせていると思いますか?また、ギャップなどを感じることはありますか?
20年以上ホテル業界にいて、サービスの技術については自信があります。入居者様への受け答え、言葉遣い、状況に応じた対応など、前職で培ったスキルはとても役立っていますね。
ただ、一つ大きく違う点は、ホテルマンはお客様より「先回り」して最善のサービスを提供するのが大切な使命だということ。例えば、少し具合が悪そうなお客様がいらっしゃれば、何も言われないうちに車椅子をご用意するのがホテルの仕事です。
しかし、ケアの現場で介護者の過度な「先回り」は、ご本人の残存能力を奪うことにつながります。杖をついてなら歩ける高齢者に車椅子を差し出すことは、決して正解ではありません。ゆっくりと見守り、危険な場面・どうしても困難な部分だけをお手伝いする。それが介護士の仕事です。
ケア業務を始めた当初、先輩から「それは過剰介護だよ」と注意されることも多くありました。先回りのサービスが身体に染み付いているだけに、このバランスのさじ加減は今でも苦労している部分です。気づきと勉強の毎日だなとつくづく思います。

難しい課題ですね。小さなことに気がつく細やかさをお持ちの水村さんに、周囲のスタッフは助けられているのではないでしょうか。
そうだといいんですが(笑)。うちの施設には10年以上勤続しているスタッフも多く、さまざまな知識や経験を惜しみなくシェアしてくれます。もちろん、私から意見やアイデアを出すこともありますし、自分のこれまでの経験やスキルが他のスタッフにとって役に立っていると嬉しいですね。
当施設はスタッフの定着率が高く、とにかく風通しの良い職場環境が自慢。私もそれに貢献できればと思っています。
ほかに仕事で大切にしている価値観などはありますか?
「出会ったときより笑顔になっていただくこと」を常に意識して仕事に取り組んでいます。ケアの時間に限らず、廊下ですれ違う瞬間なども含めて入居者様には笑顔になってもらいたいですね。あいさつやお声がけは絶対に欠かしません。もしかすると「水村はうるさいなぁ」と思われているかもしれませんが(笑)。
また、相手との目線の合わせ方にも注意しています。私は身長が高いため威圧感を与えないよう、入居者様の感じ方を注意深く汲み取りながら接することを心がけています。
入居者様にとって何よりも安心できる気づかいと優しさだと思います。では水村さんご自身が、ホッと一息つくためにはどうされていますか?
休憩時間に、クラーチガーデンという施設内の中庭へよく行きます。そこでは、ゆったり日光浴をしたり、業務で気がついた点をメモしたりして過ごしています。自分の頭を切り替え、整理するための大切な場所ですね。

プライベートはどのように過ごされているのですか?
陶芸が趣味で、教室に通っています。集中力が必要な陶芸は、心を整えるために必要な時間です。施設内でもレクリエーションの一つとして陶芸の時間があって、そちらに参加されている入居者様と器の話で盛り上がることもあります。
周囲の人の支えとともに、今できることに全力を尽くす
今後の目標についても聞かせてください。
近いところでは、まず介護福祉士の資格取得に挑戦するつもりです。そのあとは…あえて目標を一つに絞らなくていいかなと思っています。
フロント業務から介護士へ転身する際、社長から「現場を知って、さらに介護福祉士まで資格を取れば、もっといろいろなことが見えてくるはず。自己の成長のためにも、やれるところまで頑張ってみてはどうか」とキャリアパスのアドバイスをいただきました。

実際に現場を経験してみると、介護の仕事は新しい発見に満ちていました。社長のおっしゃるように、自分自身の成長やキャリアの幅を広げるためにも、視野は広く持っていたい。それに福祉の世界には、ケアマネなど選択肢がたくさんあります。だから今はゴールを決め付けず、将来については柔軟な姿勢でいようと思っています。
周囲の皆さんが水村さんを頼りにし、期待されているのが感じられます。
自分のことを見守り、気にかけてくれている人たちが周囲にいる。こんなに心強く、ありがたく感じることはありません。家族も応援してくれていますしね。高校生の息子はおばあちゃんっ子なので、「高齢者のお世話とかすごく良いね」なんて言っています。
今、私は48歳。あと何年働けるのかと考えた時、残された時間が少ないからこそ、この一瞬一瞬を大切に、今の自分がやれることを一生懸命頑張ろうと思っています。

水村さんにとって、介護のお仕事とはどんなものですか?
ひとことで言うなら、「尊い仕事」だということ。
以前、病に冒されていた入居者様が、余命幾ばくもないということで入院先の病院から戻られました。最後の入浴介助をさせていただいた私に「今まで本当にありがとう」と笑顔でおっしゃるんです。奥様と2人でご入居されていたので「妻のことをよろしく頼むよ」とも。
ご自身の旅立ちを目前にしているというのに、他人を気づかい、あたたかい言葉を掛けてくれるその姿に、私は感銘を受けるばかりでした。看取りもさせていただきましたが、男泣きしましたね。
人間の一生において最も尊厳ある、貴重な時間を共有させてもらえることへの感謝と敬意を日々感じています。
最後に、介護業界へ転職を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
私は長年、ホテルというサービスの現場で働いてきました。そして今、介護の仕事に携わるようになり、改めてホスピタリティの奥深さを実感しているところです。
相手を気づかい、寄り添い、併走する。接客業をはじめ、人とかかわるあらゆる職業の方々にとって、介護の仕事は必ず自分の糧になると思います。異業種からの転職は大きな勇気が必要なことですが、ぜひ一緒にホスピタリティを追求していきましょう。

撮影:丸山剛史
はこちら 株式会社クラーチ