今回お話を伺うのは、社会福祉法人敬老園が運営する「丸子デイサービスセンター」(所在地:長野県上田市)管理者の清水純さんです。都内の葬儀会社で働いていた清水さんが、地元へUターン転職したのは30歳の頃。家族の闘病生活を支えながら、次のステージに選んだのはケアの世界でした。「介護転職で私は笑顔を取り戻しました。」清水さんの人生を変えた、運命の転職ストーリーとは?

大学卒業後、教員試験の勉強をしながら葬儀会社などで勤務。30歳の頃、母親のがん発覚をきっかけに東京から地元・長野県へUターンした。介護士へ転職し、現在はデイサービス管理者を務める。スイーツやパンに目がない43歳。
2002〜2008年 | 大学卒業後、冠婚葬祭業や飲食店などで勤務 |
2009年 | 地元へUターンし、母の闘病をサポート |
2010年 | 社会福祉法人敬老園へ入社 |
清水純さんのLIFE STORY
小学校教員を目指して奮闘するも…
これまでのご経歴を教えてください。
地元・長野県の高校を出た後、東京の大学へ進学しました。教職を目指しており、中高教員免許を取得したものの、途中で小学校教員に進路変更することに。大学卒業後は通信教育で学び直しながら、アルバイトや契約社員として働いていました。
けれど、教員採用試験へのチャレンジ中、母親の乳がんが発覚したんです。父だけでは退院後のフォローが心もとなく、兄弟の中で私が一番自由に動ける身だったため、実家へ戻ることにしました。しばらく母の闘病生活をサポートしたのち、社会福祉法人敬老園へ就職し、今年で勤続13年目になります。

アルバイト・契約社員時代は、どういったお仕事をされていたのですか?
サービス業です。飲食店などいろいろやりましたが、Uターン直前まで5年間勤めていた冠婚葬祭業の会社が一番長かったです。営業職として、葬儀の受注をはじめ、式当日の準備・運営も担っていました。
Before | After | |
---|---|---|
雇用形態 | 契約社員 | 正社員 |
業種 | 冠婚葬祭業 | 通所介護 |
職種 | 営業 | 事業所長 |
勤務時間 | シフト制 | 8:30〜〜17:30 |
休日 | 月8日のシフト制 | 月9日のシフト制 |
仕事内容 | 接客、式場準備 | 身体介助、生活援助 事業所運営 |
葬儀関連のお仕事を選んだのは何か理由が?
当時は勉強時間を確保できるかが仕事探しの基準だったため、業務内容にまったくこだわりはありませんでした。また、なかなか教員採用試験に受からず、生活も苦しかったですしね。その点、葬儀の仕事は心身ともに大変でしたが、苦労に見合うだけの給与がいただけるありがたい職場でした。
どのような点が大変でしたか?
人の死というのは突然のことですから、葬儀の相談受付は24時間対応なんです。夜遅くに連絡が入ることも多く、常に仕事に拘束されているような感覚でした。
それに、突然の訃報に取り乱している方も多く、お客さまへの対応には気を遣います。接遇の失敗は許されないという重圧がつきまとう毎日でした。

勉強と並行してプレッシャーのある仕事を続けるのは、大きなストレスだったでしょうね。苦労を背負いながらも、小学校教諭の夢を追いかけ続けたのはなぜですか?
教育実習などを通して、不登校や引きこもり生徒の現状を目の当たりにしたことがきっかけです。中学校を訪れた際、学校に来られなくなった生徒へのフォロー体制に疑問を感じたんですよね。すごく画一的というか、言葉は悪いですが「その場しのぎ」のように感じられて…。
もしも、その子たちが小学生の頃から適切にサポートできていれば、今とは違う結果になったんじゃないか。もっと早期の段階、初等教育の現場で子どもの育ちに関わり、広い視野で見た不登校支援の仕組みづくりに携わりたいと考えていました。
すると、志半ばで地元へ戻ることになった時は、かなり複雑な心境だったのではないでしょうか。
そうですね。ただ、もともと長野には戻るつもりでいましたし、退院後の母の様子を見ていると戻ってきて良かったという気持ちの方が大きく、後悔はありません。
通院や抗がん剤治療のサポートをしながら、敬老園で働き始めるまで1年くらい実家でのんびりしたかな。それまでずっと気を張った毎日を送っていたので、ちょうど良いリセット期間となりました。

デイサービス事業所の明るさでネガティブ沼から脱却
転職先に介護の仕事を選んだ理由を教えてください。
いろんな職業を検討したものの、最終的に思考が行き着くところはサービス業一択なんですよね。人と関わる仕事がしたいというのが、自分の中で第一優先なんだと再認識しました。
その上で「将来的に必要とされる仕事」は何だろうと考えた時、高齢者介護って良いんじゃない?とひらめいて。さっそく、無資格・未経験だけど試しに受けてみるかと敬老園の面接に出向いたところ、採用が決まりました。
入社後はデイサービス部門に配属となり、介護士としてキャリアをスタートさせました。何度か事業所異動を経験し、3年前から「丸子デイサービスセンター」で管理者を勤めています。

デイサービス管理者の業務内容にはどんなものがありますか?
スタッフのマネジメントや収支管理など、事業所運営に必要な業務はすべて管理者の役割です。もちろん、利用者さまの身体介助にも入りますよ。
業務内容が多岐に渡るので忙しいは忙しいんですが、介護業界って知れば知るほど効率が上がっていく世界です。周りに支えられながら、楽しくやらせてもらっています。

今までのお仕事で得たご経験は、介護の世界でどのように活かされていますか?
サービス業を通して得た接遇スキルは大いに役立っています。
介護の現場では、ケアを受けることへの遠慮などから、困りごとがあっても言い出しづらいと感じてしまう利用者さまもいらっしゃいます。相手の言葉や仕草のちょっとした変化を見落とさず、違和感にもすぐ気がつけるよう、注意深く観察しています。
特に葬儀のお仕事には、接客マナーだけでなく相手の気持ちを察する力が求められるとおっしゃっていましたね。
失礼のない振る舞いが求められるのはもちろん、大切な人を亡くした方の悲しみや喪失感に寄り添う仕事でしたからね。人の心の機微を読み取る力には自信がついたといえます。

ただ、そんな風に葬儀の世界で毎日を過ごしていると、思いっきり笑う機会も少なくなり、普段の口数もだんだんと必要最低限になっていきました。さらには母の病気が重なったこともあって、生きることへの虚しさというか…「結局、最後は【死】なんだ」という、少し厭世的な人生観に行き着いてしまった時期があります。
葬儀に携わる仕事自体は、人々の旅立ちを彩ることができるとても尊い職務です。オン・オフを完全に切り離せるタイプなら充実感を持って働けたのでしょうが、残念ながら私には荷が重かった。ネガティブな空気に絡めとられてしまい、本来の自分が持っていた明るさや朗らかさを失っていたように思います。
では、介護転職して心の持ちようが180度変わったのではないですか?
その通りです!デイサービスの現場は笑顔にあふれていますからね。皆さんの笑顔につられて私も笑顔が出るようになって…。「そうだ、自分はこんなに笑える人間だったんだ」と再発見しました。大事なことを思い出させてくれた利用者さまやスタッフたちには、本当に感謝です。
清水さんの人生にとって大きな転換期となりましたね。
転職をきっかけに、暗い沼の底から引っ張り上げてもらったような気がします。「相手の笑顔が自分自身のしあわせにつながる」って、まさにこういうことだなと。介護職最大のやりがいであり、本質ともいえることを、我が身を持って体感できました。
その経験があるからか、普段お一人暮らしの利用者さまにはとりわけ目がいきますね。日頃さみしさや孤独と向き合っている方々も、デイサービスの活動を通じてなんとか笑顔になってもらいたい。いつもそう思っています。

在宅介護ではプロ目線がアダになる⁉
素敵なお話をありがとうございました。今度は、介護業界への転職で何かデメリットを感じた点があれば教えてください。
うちの親も後期高齢者になった今、改めて痛感していることなんですが…。「介護」に対する一般的な感覚が薄れてしまうことが、デメリットといえるかもしれません。
たとえば排泄介助って、ケアに慣れていない人にとってはハードルが高い行為ですよね。けれど介護業界に長くいると、初心者のためらいに共感しづらくなってしまいがちです。「なんでその程度のことやってくれないの?」って勝手にイライラしたりね(苦笑)。結果、在宅介護をしている家族間のケンカやいざこざに発展してしまうこともあるなと。
自分や配偶者の親の介護問題も「プロ目線」で見るようになると。
そうそう。仕事で身につけた技術や知識を、私生活でも上手に応用できれば万々歳ですが、それぞれの家庭によって事情は違うしなかなか難しいですよね。
周りの価値観に合わせすぎてしまうと、ケアを受ける高齢者側にとって十分とはいえない介護状況になるかもしれない。かといって、介護士経験者が納得できるレベルのケアを他の家族にも要求するのは酷だし、特定の介護者へ負担のシワ寄せが生じることにもつながります。
親の介護問題は話し合いが重要なのはどこの家庭でも同じとはいえ、介護職に就いている人は、家族間のギャップのすり合わせには特に注意した方がいいかもしれませんね。

誰かに求められる喜びを知ってほしい
清水さんのこれからの目標を教えてください。
介護の現場に入って10年以上経ちますが、人材不足の深刻さが加速化していると肌で感じます。一人でも多くの方に介護職へ興味を持ってもらえるよう、魅力ある職場づくりに尽力し続けたいと強く思います。
そして自分の事業所のことだけでなく、広い視点から介護の世界を変えていけるアクションを起こせるといいなと。介護の最前線でしか見つけられない、利用者さまやスタッフのニーズをすくい取って、自社やさまざまな支援機関との橋渡しができる存在になりたいですね。

今後のさらなるご活躍を期待しています!では最後に、介護職を目指す方へメッセージを。
介護職とは、人に必要とされ、それに応える職業です。自分が持つほんの小さな力を相手のために使うことで、大きな「誇り」や「自信」を与えてもらえる。こんなに素敵な仕事は他にありません。
デイサービスの利用者さまが笑顔を見せてくれたときは、今の仕事をやっていて良かったとしみじみ噛み締める瞬間です。あなたも「他者から求められる」という、しあわせな体験をしてみてください!

撮影:[ style ]+田中正直
はこちら 社会福祉法人敬老園