今回は、東京都多摩市にある「あい介護老人保健施設」(運営:社会医療法人 河北医療財団)へお邪魔しました。介護士・佐藤陽輝さんの前職は、自転車ショップの店長さん。まったく畑違いの介護業界へ転職してきたのは1年前のことでした。「利用者さまから頼りにされる存在になりたい」と笑顔で語る佐藤さんから、介護士の魅力・異業種転職成功の秘訣についてお聞きします。

大学卒業後、自転車販売会社へ就職。店長として活躍していたが、会社の方針と自身のライフプランがマッチせず、2021年に退職を決断。社会医療法人河北医療財団へ転職し、介護士として再スタートした。休日は奥様と一緒にサイクリングやグルメ巡りを楽しむ34歳。
2011〜2021年 | 大学卒業後、自転車販売店で勤務 |
2021年12月 | 社会医療法人 河北医療財団へ入社 |
佐藤陽輝さんのLIFE STORY
自転車屋さんから介護士へと転身
これまでのご経歴を教えてください。
大学卒業後、大手の自転車販売会社へと就職しました。入社4年目からは店長を勤め、神奈川県を中心に複数の店舗を経験しました。32歳の時に退職したのち、現在の職場である「あい介護老人保健施設」で介護士として働き始めて2年目です。
新卒で自転車販売業へ就職を決めたのはなぜですか?
学生の頃は体育教師を目指しており、進学した大学では健康系の学部で学んでいました。けれど在学中に病気を患い、教員免許に必要な単位を取得できず、泣く泣く夢を夢を諦めた経緯があります。
目標を失い、卒業後はどうしようかと悩む時期もありましたが、コンビニのアルバイトをきっかけに接客の楽しさに目覚めました。就職活動は接客サービス業を中心に検討し、中でも自転車店の顧客リピート率の高さに魅力を感じたんです。
自転車は、修理したりカスタムしたりと、次の買い替えのタイミングまで継続的なお付き合いが続くのが特徴のひとつです。売って終わりではない点に面白さを感じて就職を決めました。
Before | After | |
---|---|---|
雇用形態 | 正社員 | 正社員 |
業種 | 自転車販売 | 老人保健施設 |
職種 | 店長職 | 介護士 |
勤務時間 | 10:00/11:00〜20:00 | 7:00〜15:30/ 11:30〜20:30/ 16:30〜9:00 |
8:30〜17:00
休日 | 週休2日 | シフト制(月により異なる) |
仕事内容 | 自転販売・修理 マネジメント |
身体介助 |
お仕事はいかがでしたか?
子どもから高齢者まで、全世代の方と接することができるのは大きな楽しみでした。お客さまのニーズは本当に人それぞれで、こちらが提案した商品に喜んでもらえた時の達成感も強かったです。
また、自転車の知識を得るのはもちろん、自転車安全整備士など資格取得を通して、修理技術を身につける必要がありました。勘の良い人ならあっさり習得できるのかもしれませんが、私は超不器用なタイプ。就職当初は本当に苦労の連続でした。
その大変さを乗り越えることで「頑張ればできるようになる」という実体験を得ることができ、大きな収穫だったと思います。経験を重ねれば重ねるほどスキルをアップデートできる環境は、自分の自信をはぐくむ貴重な場所となってくれました。
充実されていたようですが、退職の理由は?
ちょうど結婚したタイミングで、会社から全国転勤を打診されたんです。20代半ばで店長職に就いてからは、約3年スパンでの店舗異動が当たり前となっていました。もし今後も同じペース、かつ広範囲での転居が続くとなると、家族に大きな負担をかけてしまいます。そこで、地域限定の働き方を希望したところ、給与の大幅カットという憂き目に遭いまして…。
それでもしばらくは踏ん張っていたのですが、やはり仕事へのモチベーションは下がるばかり。心機一転、自分の理想のライフプランと両立できる仕事を探そうと、退職を決断したんです。

それは大変でしたね。では、転職先に介護の仕事を選んだのはなぜでしょう?
現在の職場である河北医療財団に決めたのは、学生時代の友人からの紹介だったから。信頼できる人に勧められたのがたまたま介護職だった、という程度で…。志が低くてすみません(苦笑)。
それまで介護経験はなかったし、ケアの仕事がしたい、といった特別なこだわりも持っていませんでした。転職活動自体は営業職やIT系など、ジャンル問わずさまざまな業界・職種で探していたくらいです。
接客販売業ではなく、経験ゼロの新天地で働くことへ不安はありませんでしたか?
なかったですね。むしろ転職はチャンスと捉えていて、新しいことに挑戦できる絶好の機会だという気持ちが大きかったです。
先ほどお話しした通り、不器用だった私も自転車修理のエキスパートになれたという成功体験がベースにあるため、ゼロからのスタートに不安は1つも感じませんでした。「やればできる」という自信に溢れていたといえるかもしれません。

特技を活かしたレク企画。ピアノのお兄さんとして大人気に
現在の仕事内容を教えてください。
「あい介護老人保健施設」は、一般的に“老健”と呼ばれている施設です。リハビリテーションを中心に、要介護の高齢者の在宅復帰を支援します。提供するサービスは「入所」「ショートステイ」「通所リハ」の3つあり、介護士である私は、入所中の利用者さまの身体介助・生活援助を行っています。
老健とその他の老人ホームとの大きな違いは「ご自宅へ帰ることが目標」という点。そのため、頭や体を動かすレクリエーションがとても重要です。午前・夕方の1日2回、体操の時間が設けられているんですよ。
レクリエーションは介護士の皆さんが指導するのですか?
そうです。スタッフ個々の得意や個性を活かした、オリジナリティあふれるレク企画が当施設の自慢のひとつです。
私の場合、趣味のキーボードを弾きながら利用者さまと一緒に歌うレクが定番。今では「ピアノのお兄さん」として利用者さまから認知されています。曲をリクエストしてもらったり、レクの感想を教えてくださったりと、普段の会話が盛り上がるきっかけにもつながっているのが嬉しいです。

勤務形態についても教えてください。
勤務時間のシフトは、早番・日勤・遅番・夜勤の4パターン。休日は週2日で、夜勤に入るのは月に5〜6回程度です。
これまで日中に働いていた方は、夜勤がある職場へ不安を感じるケースが多いように思います。佐藤さんは実際に体験してみてどう感じていますか?
転職当初、夜勤については私もすごく身構えていました。大変そうだなというイメージがやっぱり強いですからね。
でも、仕事を始めてすぐに夜勤を任されることはありません。当施設の場合、入社後半年〜1年くらい経って、ようやく夜勤シフトに組み入れられる体制です。私自身も、最初に夜勤に入ったのは7ヵ月目くらいだったかな。
ある程度ケア技術に自信を持てるようになってからのスタートなので、業務面ではさほど心配する必要はないと思います。

生活リズムの面ではいかがですか?
やはり最初の数回は、帰宅後もなかなか寝付けないといった日もありました。けれどだんだん体が順応してくるんでしょうね。今は特に困りごとはありません。
介護施設って、日中はバタバタすることが多く、あっという間に時間が過ぎていきます。けれど夜勤は、突発的なトラブルがない限り、落ち着いて作業できるのが良い所。昼間は分からなかったことを調べたり、業務のあれこれを思い返して改めてインプットし直したり、介護初心者の私にとってはすごく貴重な時間となっています。

コミュ力を高め、相手の気持ちに一層寄り添いたい
介護士の仕事を始めた当初、もっとも苦労した業務はどんなことですか?
うーん、全部と言ってもいいかも(笑)!
私は家族の介護経験もない状態でのスタートだったため、最初は利用者さまに触れることすら緊張で冷や汗ダラダラ。たった数歩の歩行介助でさえ、どの程度力を入れれば良いのか、触れるのは腕なのか腰なのか、支えるのは右からなのか左なのか。何ひとつ分からなくて、まさに挙動不審状態でした(苦笑)。
中でもいちばん苦手だったのは、着替えのお手伝いですかね。意識すればするほど焦ってしまって。実際に利用者さまから「遅いよ」なんて指摘されたことはありませんが、自分の体感的にはめちゃくちゃ時間がかかっていたはずです。
今は苦手を克服できましたか?
克服できた…と思います。研修や実務経験を重ねることで、徐々に自信を持って介助に当たれるようになりました。
前職で自転車修理をする時も同じ感覚でいましたが、作業をスムーズに行うポイントは、次の手順を常に意識しながら動くことなんですよね。
着脱介助だったら「頭を通したら次に右腕から袖を…」と、自分の中でパターン化してしまえば効率が良くなります。人体のつくりや動きを理解するのはもちろん、お体の麻痺や介護度など、利用者さま個々の心身の状態をしっかり頭に入れておくことも必要です。

前職で身につけたスキルが活かされている場面はありますか?
以前は店長として、クレーム処理や難しいお客様への応対も数多く経験してきました。そのため、利用者さまから厳しいご意見をいただくことがあっても、感情で反応したり正論で返すのが最善ではないとよく知っている分、うまく対応できているかなと思います。
それに、ケアの仕事をするようになってからは、応対の精度に磨きがかかってきたように感じます。いかに揉めずにうまく収めるか、が第一優先ではなく、相手へ「寄り添う」形での解決方法をまず考えるようになりました。
「文句を言われた。とりあえず謝っておこう」では、結局のところ何も解決しないままですからね。相手の背景やこれから先のことまで思いを巡らせる。その上で、自分にできるベストを探す視野の広さを、これからも意識していきたいです。
とてもやさしい考え方ですね。素敵です!
前職は接客業とはいえ、あくまで商品を売ることがメインでした。けれどケアの世界は、人間同士の深いつながりや、相手への理解なしには成り立ちません。利用者さまとじっくり向き合い心を通わせることができることが、介護士の面白さ・やりがいだと感じます。

相手へ親身に寄り添うお仕事だからこそ生まれる、葛藤や悩みもありそうです。
時間に制約があることへもどかしさを感じる場面は多々あります。利用者さまがもっとお話したいと思う時も、ほかのタスクが積み上がっていれば、ある程度で会話を切り上げて次の仕事に向かうしかありません。
しかしそうなると「邪険にされた」とネガティブに捉えてしまう方もいらっしゃいますよね。寄り添う深度と、割り切る気持ちのバランスの取り方が難しいなとつくづく思います。
それは多くの介護職の方が感じるジレンマかもしれませんね。佐藤さんの場合、どのように解消しようとしていますか?
先輩方の応対の様子を観察して、コミュニケーションのコツを盗んでいます!ベテランの皆さんは、どれだけ忙しくても、相手を嫌な気持ちにさせない会話テクニックを持っているんですよ。
言い回しなど、ちょっとした変化をつけるだけで、どんな利用者さまとも笑顔でお話を終えるのがすごいと思って。感嘆するとともに、多くのことを学ばせてもらっています。

働くイメージが描ければ、きっとあなたも大丈夫!
佐藤さんのこれからの目標を教えてください。
わたしのいちばん大きな目標は「頼れる介護士」になること。今は在宅復帰のお手伝いをメインとしていますが、認知症に特化した支援など、さまざまな形の支援を経験してみたいと考えています。オールマイティな介護士が理想の姿です。
介護業界への転職を考える方へ、アドバイスをぜひ。
自分の転職時のことを振り返ると、入社前に職場見学をさせてもらったことが強く印象に残っています。無理なく働けるイメージを描けるかどうかが、介護転職を成功させる1つのポイントなんじゃないかな。
そのためには、働く前に不安・心配事をできるだけクリアしておきたいですよね。働き方や業務内容など、疑問や希望があれば、遠慮なく会社へ相談してみると良いのではないでしょうか。きっと、あなたにとってベストな働き方を一緒に考えてくれると思いますよ。
先入観や思い込みだけで決めつけず、まずは実際に目で見て、耳で聞いて、確かめること。そして「自分に向いているかも」と少しでも感じられたら、ぜひチャレンジしてほしいです。

撮影:丸山剛史/一部写真提供:あい介護老人保健施設
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