今回の取材の舞台は、福岡県春日市の住居型有料老人ホーム・ケアライフ昇町です(運営:有限会社ベストライフ)。こちらで働く清瀬義人さんにとって、介護の仕事は当座のアルバイトのつもりだったそう。しかしケア業務の面白さに魅了され、今年で勤続7年目。8月には社内最年少の施設長へと昇格し、理想の施設づくりに向けて日々奮闘しています!

牧場での家畜人工授精師、医薬品の営業職を経験した後、介護士として有限会社ベストライフへ入社。複数の有料老人ホームでの勤務を経て、2022年8月「ケアライフ昇町」施設長へ着任。2歳になる子どもと遊ぶ時間が最高の幸せと語る32歳。
2009年〜2012年 | 独学で家畜人工授精師資格を取得後、牧場に勤務 |
2012年〜2015年 | 医薬品小売業の営業職として活躍 |
2015年 | 有限会社ベストライフへ入社 |
清瀬義人さんのLIFE STORY
介護士の仕事は「今だけ」のつもりだったのに
これまでのご経歴を聞かせてください。
高校を出てからは、牛の牧場で家畜人工授精師として3年間働きました。その後は医薬品の営業職を経験し、25歳で現在の職場である有限会社ベストライフへ転職。介護業界歴は今年で7年目になります。
Before | After | |
---|---|---|
雇用形態 | 正社員 | 正社員 |
業種 | 医薬品・化粧品小売業 | 有料老人ホーム |
職種 | 営業 | 施設長 |
勤務時間 | 8:30~18:00 | 8:30~17:30 |
休日 | 土日祝 | 月9日のシフト制 |
仕事内容 | 配置薬・健康食品の営業 | 身体介護・生活援助・施設管理 |
牛の人工授精師!珍しいご職業ですね。
子どもの頃から動物が大好きなんです。地元の鹿児島は畜産が盛んなこともあり、牧場専属の授精師として、牛の種付けや受精卵移植といった業務に従事していました。
牛たちは本当に愛らしく、大きなやりがいを持って働いていましたが、命を扱う畜産農家は年中無休の仕事です。休みは取りづらく、家畜の状態に合わせて勤務時間が左右され、ひたすら体力勝負の毎日を過ごしました。
将来のことを考えると受精師を長く続けるのは難しいと判断し、泣く泣く転職することを決めました。
それで営業職へ転身されたと。
高卒で手に職を持たない僕でも、自分の努力次第で結果が出せる職種といえば営業かなと思ったのが理由です。ご家庭に配置薬を提案する個人営業のポジションとして、医薬品メーカーへ採用されました。
この業界を選んだのは、家畜人工授精師として薬の知識を持っていたためです。具合が悪い牛に飲ませる動物用医薬品って、実は人間が飲むお薬と同じ成分なんですよ。
それに、限られた人としか関わることのない牧場はとても閉鎖的な環境でした。心機一転、さまざまなバックグラウンドを持つ方と接してみたいという好奇心もあって、BtoCの営業職が魅力的に感じられました。

実際に営業のお仕事に就いてみていかがでしたか?
コミュニケーション能力やビジネスに必要な思考力など、多くのことを学ぶことができました。
都会では「置き薬」という文化は廃れているかもしれませんが、僕の担当エリアの中にはかなりの僻地も含まれていたし、まだまだお客様のニーズは高い商売といえます。
とはいえ、訪問営業されることに抵抗感を抱く方は多く、警戒心むき出しの相手から「うちには必要ない!」と玄関先で怒鳴られることも。精神的ストレスが重なり、3年で退職という結果になりました。
次の職場に介護の世界を選んだのはなぜですか?
正直なところ、当初は介護の仕事にまったく興味がなく…(苦笑)。
その頃はまだ、畜産の現場に未練が残っていました。畜産業が盛んな市町村では、役所で人工授精師の求人があるんですよ。役所所属ならワークライフバランスを取りつつ授精師として活動できるのではないかと考え、公務員試験を受ける準備を進めていました。
次の仕事を探す際も、まずは勉強との両立が第一優先。そんな時に見つけたのが、介護施設の夜勤専従アルバイトでした。地方でも高時給だし、昼間は勉強の時間が取れて都合が良いなと思って。ただ条件面だけで選んだというのが本音です。

等身大の理由で共感できます。
世間には「介護職はキツイ・しんどい」といったイメージがありますよね。だから、やりがいや楽しさといった期待感なんてゼロ。「公務員試験に受かるまでの辛抱だ」程度の考えでアルバイトは始まりました。
けれど実際に働いてみると、これがめちゃくちゃ面白い!訪問営業で高齢者世代と接する機会が多かったため、入居者様との交流に戸惑うことはなかったですし、ケア業務にもすんなり馴染むことができました。
良い意味でのギャップを感じられたのですね。
施設へ出勤するのが日毎に楽しくなってくることに、自分でも驚いてしまって(笑)。当時、自宅で祖父の介護をしていた母親にも話してみたところ「楽しいと思えるのは、あなたが介護士に向いているからよ」と言われ、なるほどと納得しました。
それに、役所の授精師の求人は、数年に一度しか募集がかかりません。一体いつになるか分からない求人を待つより、今面白いと思える介護の仕事へ腰を据えて向き合ってみるのも良いんじゃないか。
徐々にそう考えるようになって、1年間のバイト生活ののち、正社員として改めて雇用してもらいました。授精師の活動は、老後の楽しみとして取っておこうかななんて思っています。

プライベートの充実・キャリアプランの実現が両立可能!
入社7年目とのことですが、施設異動のご経験などは?
現在僕が施設長を勤める「ケアライフ昇町」には、今年8月に異動してきたばかりです。バイト時代も含めた最初の5年間は、鹿児島の住居型有料老人ホームで働きました。その後、北九州市と山口県の施設でも約1年間勤務し、ここ福岡県春日市へと転勤してきました。
転勤は多いのですか?
会社全体で見ると、短期間でこんなに動くのはレアなケースだと思います。
僕の場合、将来は幹部のひとりとして活躍したいというキャリアプランを描いています。運営元は同じでも、土地・利用者様・スタッフが違えばまるで別モノになるのが介護施設の面白いところ。複数の施設で勉強させてもらえたことは、知見を広げるのに有意義な経験となりました。

社内のキャリアパス制度が整っているということですね。若い施設長さんだなと驚きましたが、会社が清瀬さんに期待を寄せているのが分かります。
今年32歳で、現時点では社内最年少の施設長です。成長の機会を与えられていると感じられ、身が引き締まる思いでいます。ちなみに、こちらの施設の中でも僕が一番年下なんですよ。
年上のスタッフを率いる上で、苦労すること・意識していることは?
ミスや失敗の指摘など、言いづらいなと思う場面はもちろんあります。スタッフも、時には僕に対してカチンと来ることはあると思うんですが、こちらの立場を尊重してくださっていて、本当に感謝するばかりです。
また、施設長という役職は組織としては中間管理職にあたるため、会社の意向や方針をスタッフに伝える役割があります。その中には、現場の人間にとっては「なぜ?」と感じることもあって当然。納得してもらえるよう言葉を尽くし、誠実な対応を取るよう心がけています。

現在の勤務スタイルを教えてください。
お休みは月9日のシフト制です。8:30〜17:30が勤務時間で、残業はほとんどありません。
営業職時代は残業で帰宅が深夜になることも多かったため、ライフスタイルは大きく変わりました。オンオフをきっちり切り替えられるようになり、プライベートも充実しています。
仕事の目標のひとつに、育児との両立を挙げていただいています。
昨年1年間を単身赴任で過ごしたこともあり、家族揃って生活できる今の幸せをしみじみ噛み締めているところで(笑)。子どもと一緒に過ごす時間がたくさん取れるのは、現在の職場環境で自慢できることの1つです。

仕事と趣味で培った経験を武器に、組織改革へチャレンジ
前職のキャリアが活かせていると思うことはありますか?
営業職として、たくさんのお客様とお話する中で身に付けた対話力です。
こちらの言葉ひとつで相手の受け止め方が変わるというのは、今まで散々経験してきたこと。利用者様やスタッフと接する際は、自分の話し方や表情に気を付けています。
営業と介護職を比べて、最も違いを感じる部分は?
前職でもチームリーダーとして数人の部下をまとめていましたが、なにせ職種が個人営業だったこともあり、基本的には一匹狼な働き方でした。最終的に契約さえ取れれば結果オーライ。ゴールに至るまでの過程は、営業マン個人の裁量に任せられていました。
けれど介護の現場では、最終決定に至るまでの経緯こそが重要視されます。関わったメンバー全員で振り返りと検討を重ねながら、より良いケアを模索していく必要があります。
意識のシェア、業務の連携、報告、相談。どんな場面でもスタッフ同士の密なコミュニケーションが要求され、そこが介護の世界の魅力であるとも感じています。

介護の世界で働く中で、難しさを感じる点はどこですか?
営業は明確な数字目標がある分、頑張るための動機付けがしやすいんですよ。一方、介護職には正解がないと言われているだけに、モチベーションを保つ難しさは折々で感じます。
これからは清瀬さんが、スタッフのやる気を引き出すための仕掛けを作っていく必要がありますね。
その通りです。異動してきて真っ先に着手したのが、教育システムの改革でした。看護師の世界でよく採用されているプリセプター制度を元に、「この人を一人前の介護士になるまで導いてください」とベテラン職員へ新人教育を任せる手法を取り入れています。
他にも、個々の適性やスキルを見極めながら、スタッフそれぞれに新しい業務を任せる取り組みを始めました。常にチャレンジを続けてもらうことで、成功体験の積み重ねや自身の課題への気づきになればという狙いがあります。
そして、スタッフみんなの努力の結果を受け止め、適切な人事評価を行うことでやりがいを提供する。これが僕の役目であり責任ですね。
施設長着任から間もないながら、スピード感のある改革に驚かされます。
当施設では満床が続いているため、ベッドコントロールなど数字の面で頭を痛める必要がないのはラッキーでした。おかげで、内部の組織改革に注力できています。
また、僕は日本サッカー協会の2級審判員の資格を持っていて、社会人リーグの試合で審判活動をしています。冷静な思考力、自分の判断力への自信と責任感、ゲームをコントロールする強い意志が審判には求められます。
審判活動を通して、20代のうちからアンガーマネジメントやチームマネジメントの実践を繰り返せたことが、職場の責任者となった時の予行演習になったのかもしれません。

変化を楽しむ心の余裕が、介護転職成功のカギ
清瀬さんの目標を教えてください。
ケアライフ昇町を理想の施設に変えていくこと。介護転職して以来、良い介護とは何なのかを考え続けていましたが、昨年勤務した施設のおかげで僕の「理想の施設像」が明確になりました。
その施設は、スタッフ全員が「介護の楽しさ」を実感しながら働ける職場でした。みんなが主体性を持って、日々のケア業務やレクリエーションにイキイキと取り組んでいたんです。その熱量と比例するように、利用者様の満足度・QOLも非常に高いものでした。
被介護者と介護者が共栄共存している空気感がすごく素敵で、これこそが介護の世界が目指すべきゴールの1つだと感銘を受けました。このビジョンを実現するためにも、現在進めている組織改革で成果をあげることが当面の目標です。

プライベートの目標は、サッカー1級審判員の資格を取ること。鹿児島にいた頃も受験資格はあったんですが、転勤でチャレンジが中断してしまって。福岡での生活が落ち着いてきたら、資格取得に向けた活動を再開しようと思っています。
最後に、介護業界を目指す人へメッセージを。
介護転職へためらっている方もいらっしゃると思いますが、騙されたと思って一度飛び込んでみてほしい!
実際に働いてみると、介護の世界を外から見ていた時に抱く印象とは違う感想を持つと思います。そんな風に、自分の感情の変化を経験することってあまりないですよね。
また、利用者様との会話は知らないことだらけで、新たな発見の連続です。今では「清瀬くんって本当は何歳?」と言われるくらい懐メロや相撲に詳しくなっている自分がいたりして(笑)、そんなちょっとした内面の変化も楽しめてしまいます。
介護の面白さをたくさんの人と共有したいと願っています。一緒に頑張りましょう。

撮影:濱田陽守
はこちら 有限会社ベストライフ